よしおスタンダード

ばしゃ馬さんとビッグマウスのよしおスタンダードのレビュー・感想・評価

3.8
No.3124

『諦めなくても夢は叶わない、こともある。でも、もっと違うことが、叶っている、こともある』

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吉田監督の作品は初視聴。

まず率直に思ったのは2点。

1.モブやエキストラが生きている。

たとえば喫茶店や居酒屋のシーン。主人公のカップルが話している。彼らの横や、後ろに映っている、名も無い他の客たち(いわゆる"モブ")が、

カメラを意識していて緊張しているのか、ほとんど動かなかったりして、ただの「置物」になっていることがよくある。

もっと顕著なのは、事件現場に野次馬が群がってるシーン。

モブであるエキストラは、大体、ほとんどの人が人形のように突っ立っていて、時々不自然にあたりを見回したり、隣にいる人と取ってつけたように会話している(ように見える演技をしている)のを、毎回、

「あちゃー、置物ーー」

と失笑しながらこういうシーンを見ている。

(エキストラが死んでいるのを嫌い、一人一人に演技指導した、というのは黒澤明だったか)

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ところが、本作では、エキストラやモブが、妙に「生きている」。

喫茶店の女性従業員が妙に個性的だったり、おじさんが後ろでずっと鼻をかんでいたりと、

明らかに、意図的に、演出がつけられている。

リアルを追求すれば、当然、そういう人がいてもおかしくない。

(ただし、風呂のシーンで、おじさんが立ち上がったら股間にモザイク入れてるのはやりすぎ。リアルを追求しているからそうなるのだろうが、

なんだか奇をてらっているように見えてしまうし、ちょっとあざとい。別に笑えないし、この映画のテイストに合っているとも思えない)。

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2.この映画そのものが「脚本」を意識できるように作られている。

映画の中盤くらいまでは、1で述べた特徴や、ビッグマウスなのか、ただのアホなのかいまいちキャラがよくわからない天童の描き方など、

監督の作家性があちこち漂っちゃっていて、あーー、ちょっと苦手なツボの映画だわー、と思いながら見ていたのだが、

だんだん、天童や馬淵のキャラ、2人の関係性などが、「締まって」くる。

初め緩かったネジが、少しずつ締まっていっているような感じ。

馬淵や、元カレの松尾との会話など、特にセリフ、芝居がシャープになってくる。

私には掴みづらかった天童のキャラも、母との関係性が絡んでくると、
「そうか、彼は彼で不安だったんだな。不安で、自信を持って生きていいのかどうかすら、よくわからなかったから、ビッグマウス(いわゆる、はったり)でいくしかなかったのか」

と思ったら、もう、天童がいとしくていとしくて、朝まで飲みながら語り明かしたくなった。

安田章大の人柄とあんなにマッチしてる役、すごいね。

そして、天童が脚本家を目指したきっかけの話を聞いて、「なぜか」さめざめと馬淵が泣き出す、邦画らしいとてもいいシーンが生まれる。

そこで、

「あ、この映画は、何度も改稿して、ブラッシュアップして良くなっていく脚本の構造そのものを表しているのか!!」と気が付いた。

気が付いたら、あとは一気にのめりこんで見ていた。