櫻イミト

女っ気なしの櫻イミトのレビュー・感想・評価

女っ気なし(2011年製作の映画)
4.0
フランスでロングランヒットし現在も根強い人気を持つダメ男の恋愛映画。 ギョーム・ブラック監督のデビュー短編「遭難者」(2009)の後日譚。ヒロインの娘を演ずるコンスタンス・ルソーは黒沢清監督「ダゲレオタイプの女」(2016)で主演。

フランス北部の海辺の町。地元の青年シルヴァンが管理するアパートにヴァカンスに来た母娘が滞在する。奔放なシングルマザーと内気な娘。3人は海水浴や買い物をして楽しく過ごしていたが、やがてヴァカンスの終わりが近づき。。。

フランスのヴァカンス映画と言えばエリック・ロメール監督も思い浮かぶが、何といってもジャック・ロジェ監督「アデュー・フィリピーヌ」(1962)「オルエットの方へ」(1970)が決定版。本作もテーマは同じで、晩夏の海のヴァカンスを舞台に男女の出会いと別れを哀愁と郷愁を込めて描いている。

ロジェ作品から50年を経て、ヴァカンスの風景は驚くほど変わらない。大きく違うのは、賑やかな女子映画だったのが寡黙な男子映画になったこと。

明らかにモテない設定の三十路の主人公。優しいが不器用、小太りで頭は薄くなり今後も独身でいることが予感される。そんな彼がヴァカンスで迎えた母娘とのドラマに、人生には何が起こるかわからない、その最たるものが人と人との出会いなのだというメッセージを感じた。

50年前のロジェ作品は陽から陰の結末に向かうホロ苦いものだった。対して本作は陰から陽へと向かう。それを甘すぎるとする向きも見かけるし確かにファンタジー過ぎると思うところもあるが、登場人物の素朴さゆえ嫌味が感じられないのが本作の良さだと思う。

時には斜に構えず、せめてヴァカンス映画には癒されたいと感じるのは、自分の心が疲れているのか、本作に心の疲れを気付かされたのか(笑

本作の制作は2011年。3.11が起こった年の海の映画。
櫻イミト

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