テオブロマ

ゼロ・グラビティのテオブロマのレビュー・感想・評価

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
4.0
生きること、生きようとすることの尊さとスペースデブリの恐ろしさを知る映画。自宅のテレビでも十分伝わる映像の美しさと音響の素晴らしさ。あの長回し一体どうやって撮ってるんだろう…絶対映画館で観るべきだったなぁ。もったいないことした。

開幕10分で早くもすさまじい絶望的状況に放り出され、その後も次から次へと命の危機に晒されていく主人公ライアン。次に起こることは事前に仄めかされてだいたい予想がつくのに、どれもこれも絶望感がすごいので全く心が休まらず、ずっとハラハラし通しで心臓に悪い。エクスプローラーの他のメンバー達が絶命している様子は完全にホラーだった。ライアンが錯乱するのも仕方ないし、酸素を大切にしろと言われてもあれは叫ぶよ。無理だよ。

冒頭からライアンもうちょっと落ち着けよと結構思っていたけど、亡き娘の話を聞いて一気に感情移入してしまった。大切な娘を失ってからのライアンは人生ではなく余生を送っていたんだと思う。ただ日々仕事をして何となく生き続け、いつかその時が来たら死ぬだけという感じ。産前に観ていたらまた違った感想になったかも知れない。

マットが本当にかっこよくて、ライアンのために彼が自ら命綱を離したシーンが辛くて辛くてたまらなかった。孤独に苦しんで死ぬと分かっているのに、どうして最後まであんなに強く優しくいられるのか。彼にあんなに暗く冷たくて寂しい所でひとりぼっちで死んで欲しくなかったな…毛深い男の話はどうなったの…。

マットが生き生きと話をし続けてくれていた分、彼との通信が途絶えて以降はライアンの孤独と恐怖がいっそう際立つ。宇宙は息を飲むほど美しいと同時に死の世界であることを嫌でも思い出させる。ひとりぼっちで誰とも話ができないという状況は想像以上に辛いもので、ライアンの心が折れるのも無理はない。会話相手0、頼る相手0という状況がずっと続くと本当に発狂しそうになるんだよね。

1度は死を受け入れたライアンが生への執着を取り戻し、マットに娘への伝言をお願いするシーンは胸が熱くなるし、「ママは諦めない」という言葉がとても力強く響く。生きる意志を取り戻したライアンを心配することはもうないので、そこからは消火器の噴射で方向転換するのディズニーの『ウォーリー』でもあったなぁとか、ライアンには分からなくても中国語で書かれてるの日本人なら何となく読めるなぁとか、安心して色々と余計なことを考えた。

地球に帰還し、重力を全身で感じながら生まれたての子鹿のようになりつつも2本の足で立ち上がり、よろよろと一歩を踏み出すライアンの姿からはものすごく「生」のエネルギーを感じた。そして現れるタイトル『GRAVITY』。素晴らしい流れ!吹替版でもここでちゃんと原題を出してくれたので、意味が180度違っちゃってる邦題のことも許す。

科学的に見たらおかしい所もたくさんあるんだろうけど、本作で重要なのはそこではないと思うのであまり気にはならなかった。誰にでもおすすめできる作品。
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