ドンチードル

アルプスのドンチードルのネタバレレビュー・内容・結末

アルプス(2011年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

作家性は一貫してるけど撮影とか音楽がまだ個性的では無くて、美術も勿論予算もなければロケーションの選択にしてもあまり面白いところはない

できる限りシュールな世界観を作ろうとしてるのはわかる。そういうストーリーだから映像もシュールな方が良いんだけど、予算なのか技術のせいなのか、映像のシュールさが明らかになってくるのは個人的には『聖なる鹿殺し』あたり。

今作は、舞台が現実で変な人たちが映されてるのか、現実に似た変な世界での普通の人たちが映されてるのかがわからない。個人的には後者として捉えた方が観やすかった。というかそうじゃないと赤の他人を故人として受け容れるのが流石に飲み込めなかった。まあこの世界の人たちはそういう人たちで、そんな人たちが最終的には故人であるはずのアルプス達を邪魔者に感じ始めるのは少し面白い。

『哀れなる者たち』の不思議な世界観は、主人公ベラの視点から見た現実世界(もちろん忠実な現実世界ではない)で、それが視覚的に良く表せているから一見おかしなあの世界観でも理解できたし、我々の現実に通じるものがあるから面白かった。『女王陛下のお気に入り」は史実とまではいかなくても現実世界にかなり近いから、あのドラマは素直に観やすかった。今作は現実とどれくらいかけ離れた世界なのかが分かりづらくて、仮に現実とかけ離れた世界観なら、現実にいる我々にも共通するものが何なのか(視聴者に何を伝えたいのか)がわからなかった。

というのも、この作品にはヨルゴス・ランティモスらしさが沢山あるものの、現実の世界を暗喩する様なメタファーの使用が無かった。あったとしたら難しすぎて伝わってない。『ロブスター』や『聖なる鹿殺し』も現実の見た目をしつつもかなり変わった世界だけど、その世界観のおかしさを撮影や音楽で表せているし、メタファーを通して現実世界を投影できるから面白い。

例えば今作で居座り続ける故人を嫌になるのとか、現実にはそんな状況がありえないから、だから何だと思ってしまう。現実との重なりが薄すぎて、何も得るものがないし、「変わった世界の人間たちのドラマ」として観るにも、現実世界の価値観からするとドラマ性が薄い