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化身のakrutmのレビュー・感想・評価

化身(1986年製作の映画)
4.1
渡辺淳一の同名恋愛小説の映画化作品で、監督は女性映画の名手・東洋一、ホステスから女性実業家に変身を遂げていくヒロイン・霧子を演じるのが、本作が宝塚歌劇団退団後のデビュー作となる黒木瞳。一方、彼女のパトロンとなる文芸評論家を藤竜也が演じている。

渡辺淳一の小説は好きでほとんど読んでいるが、彼の恋愛小説は完全に男性(渡辺淳一本人が投影されている)視点で、女性(や女性との恋愛)が描かれていく。この『化身』でも、中年の文芸評論家が地方から上京して銀座のホステスになったばかりの霧子を気に入り、彼女を自分好みの女性に変身させていくというストーリーである。しかし、彼女の世界が広がるにつれて、洗練された女性になるとともに次第に自分から離れていってしまう(まさに「化身」と言える)際の、男性の(身勝手な)悲哀が小説のテーマである。映像でそのような心情そのものを描くのはなかなか難しいと思うが、本作での藤竜也の演技がとても素晴らしくて、そんな男性の情けなさや惨めさが十分に伝わってくる。渡辺淳一原作の映画作品において、このポジションの役といえば津川雅彦なのであるが、本作の藤竜也も印象に残る。

一方の変身していく女性・霧子を演じる黒木瞳も、デビュー作とは思えないほどの魅力的な演技である。もともと、この役が彼女の持っている雰囲気にマッチしていて演じやすかったということもあるだろうが、素朴でもあるがしたたかでもある女性の雰囲気がよく出ている。デビュー作ながらも大胆なエッチシーンを披露しているところも見どころ。

それからやっぱり言及しておきたいのは、『四季・奈津子』に続いて東陽一作品に出演した阿木燿子。下手くそながらもどこか味のある演技が気になってしまう。本作では出演時間は短いので、彼女を堪能したいならば『四季・奈津子』がいいだろう。でも、本作でも冒頭で大胆なヌードは披露している。下手さが気にならない貴重な?女優として、もっと映画に出演してほしかった。
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