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ハンナ・アーレントのSariのレビュー・感想・評価

ハンナ・アーレント(2012年製作の映画)
3.8
『鉛の時代』『ローザ・ルクセンブルク』などで知られるニュー・ジャーマン・シネマの担い手の一人であるマルガレーテ・フォン・トロッタ監督による渾身の傑作。

「全体主義の起源」等の著作で名高いドイツ系ユダヤ人の哲学者ハンナ・アーレントの生涯を描いた伝記映画。

日本では2013年10月26日に岩波ホールで公開され、同ホールでは約10年ぶりに初日から2日連続で満席の観客を集め、その後も観客の行列が出る盛況となった。

60年代初頭。ドイツで生まれ、第2次世界大戦中にナチスの収容所から逃れてアメリカに亡命した哲学者ハンナ・アーレント(バルバラ・スコヴァ)。戦後も米国にとどまり執筆活動を続けていたハンナは、ナチス戦犯アイヒマンの裁判を傍聴し、「ザ・ニューヨーカー誌」にレポートを書くことになる。イスラエルでの裁判に立ち会った彼女は、アイヒマンが凶悪な怪物ではなく、思考停止に陥った平凡な男が命令に従った行動。それが全体主義としての悪だと客観的に述べたのである。それによって、アイヒマン擁護として取られ大問題に発展する。この主張をラスト8分のスピーチで行うシーンが圧巻。ハンナ・アーレントを演じたドイツの女優バルバラ・スコヴァの熱演が素晴らしい。

絶対悪とは何か、考える力とは何か?
それを問うとともに、ハンナの強い信念を描き出す。敢えてハンナの生涯全体を描くのではなく、大きな社会問題となったアイヒマン騒動にのみ焦点を当てた結果、ハンナの主張・考え方が明確に伝わってくる脚本と演出が素晴らしい作品である。

そのアイヒマン騒動として、本編中に1961年にイスラエルでナチス戦犯として裁かれたアイヒマンの法廷の記録フィルムが挿入されているところのリアリティが貴重でかつ素晴らしい。

撮影監督は、ゴダールやカラックスの作品で知られるキャロリーヌ・シャンプティエ。

2024/05/01 DVD
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