MasaichiYaguchi

ランナウェイ 逃亡者のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ランナウェイ 逃亡者(2012年製作の映画)
3.0
本作は、1969年にベトナム戦争反対を訴え、連続爆破事件を起こした過激派グループ「ウェザーマン」を題材にした社会派サスペンス。
この実在した「ウェザーマン」は数々の事件を起こした後、忽然と姿を消す。
映画は、その30年後に元メンバーの一人が逮捕されたことを切っ掛けに、今はアメリカの一般市民となっている彼らが、過去の亡霊に囚われるように主人公の逃亡劇に巻き込まれていく。
ベトナム反戦運動がピークだった頃、私はまだ小学生で、「対岸の火事」という感じで海外ニュースを見ていた。
この作品を観て、当時のアメリカの若者たちにとって「ベトナム戦争」への徴兵が如何に過酷なものであったのかが伝わってくる。
とは言うものの、「ウェザーマン」のやった爆破テロで己の主義主張をアピールするのは、正しいとは思えない。
元メンバーだった主人公は、グループ消滅後、偽りの名前を手に入れ、弁護士になったり、家庭を持ったりして、別の人生を歩んできた。
それが元メンバーの逮捕を契機にして、新聞記者のベンが、連続爆破事件と関連して起きた銀行強盗事件の真相を追うようになり、やがて主人公の所まで迫っていく。
この新聞記者によって、30年間嘘で塗り固めてきた主人公の仮面が剥ぎ取られ、銀行強盗の容疑者として追われる羽目になる。
妻を亡くした主人公は、11歳の娘との二人暮らしなのだが、この最愛の娘との生活を守る為、ある目的を持って逃避行し続ける。
その逃避行は、封印した苛烈な過去を共有した人々への旅。
訪ねる人々全てが初老となり、過去の亡霊のような主人公に複雑な反応を示す彼ら。
この旅の終着点には、主人公たちが封印した秘密が待っている。
我々日本人にとって「ベトナム反戦運動」は、当事者として体験している人が殆どいないので、この作品のバックボーンがいまいち心に迫ってこない。
銃撃戦も肉弾戦もない、この静かな社会派サスペンス作品は、苛烈な時代を生きた彼らの「青春への鎮魂歌」かもしれない。