ジュン68

昼顔のジュン68のレビュー・感想・評価

昼顔(1967年製作の映画)
4.0
 マイブーム「娼婦映画探訪」10本目

 美しい妻が、自らの不感症と性的妄想に悩み、娼婦になる。その動機は、夫に対する一途な愛があればこそ。これまた、娼婦を通じて語られる、男の願望ですね。そんな健気な若妻セヴリーヌを演じるのは、カトリーヌ・ドヌーヴ。昼だけのお仕事なだけに、下着は清楚な白をお召しで、男としてはたまりません。
 今回、二度目の鑑賞だったのですが、初回に観たきっかけは柴門ふみさんの漫画に、主人公が名乗る「昼顔」を真似た源氏名のコールガールが登場するものがあり、それで観てみようと思ったのでした。
 ラストシーン近く、セヴリーヌの客だった若い男とのトラブルに巻き込まれ、夫ピエールが病気になる。妻が看病しているところに、もともと彼女に娼婦になることを吹き込んだ悪友ユッソンが訪ねてくる。彼はピエールに全てを話すという。つまり、妻が娼婦をしていたことを夫に知らせるというのだが、彼とピエールとの会話を詳細に描くシーンが無いところが巧みですね。ユッソンは粋な遊び人だから、きっと上手い話し方をしたんだろうなと想像させます。
 ユッソンが立ち去った後、セヴリーヌがピエールの傍らに戻ると、彼の頬には涙の跡が残っている。その後すぐにピエールの病気が治って、ハッピーエンドで終わる。オープニングの馬車がラストにも現れるが、もう二人は乗っていない。何とも印象的な幕切れでした。
 娼館の女主人マダム・アナイス役のジュヌヴィエーヴ・パージュも、上質なコケットリーを醸し出していました。
 アナイスがセヴリーヌに、”BELL de JOUR”という仕事用の名前をつけたあと、「キスして」とねだる。戸惑うセヴリーヌに、アナイスの方から顔を近づけていき、美女二人が唇を軽く重ねる。チェリー酒の味がするキス。いやん、素敵イ♡ 高級娼館の女主人になって、店の綺麗な女の子たちと、ちょっと「エルの世界」っぽくキスするのって楽しいだろうなあ。
 男が理想とする女性像を語る言葉として「昼は淑女、夜は娼婦」とよく言われます。この作品の主人公は、夫だけの娼婦になるべく、昼に予行練習をするわけですが、彼女の葛藤や行動を通じての変化は、「昼は淑女、夜は娼婦」な女の良きモデルになっております。「an・an」なんかで「娼婦な女になる!特集」みたいなの、よくあるじゃないですか。そういうときによく引き合いに出される定番ですね。
 
2015/9/15 DVDにて鑑賞


余談:
「昼顔」が使われるの、漫画やTVドラマだけじゃなくて、「人妻 風俗 昼顔」でGoogle検索してみると、ああやっぱりね、そういう名前のお店あるんですね。店長の方が、この映画、お好きなんでしょうね。店長さん、あのね、そういうお店の名前にこの映画のタイトル使うの、僕はいいと思いますよ。お店の女性に全員、この映画見てもらって、みんなカトリーヌ・ドヌーブになり切ってもらうと尚良しと思います。

余談2:
 「マダム・アナイス」が、日本の小説に使われている例です。以下、小池真理子さんの「青山娼館」から引用
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マダム・アナイス=漆原塔子に初めて会った時のことだ。マダムはわたしに「恋は御法度よ」と言った。会ってから三分もたっていなかったと思う。
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同小説の冒頭です。この小説では娼館自体の名前が「マダム・アナイス」です。それが何に因んだ名前か、女主人の漆原塔子が、面接に来た主人公に、こう説明します。米国の小説家ヘンリー・ミラーの恋人であった性愛作家、アナイス・ニンから取ったものであると。ということは、映画「昼顔」のほうの女主人マダム・アナイスも、アナイス・ニンからもらったものなのでしょうかね?ちょっと調べてみたい疑問です。

余談2の続き:

同じことを考えている、映画レビュアーのブログを見つけました。

What’s In the Box?
https://cinebeats.wordpress.com/2007/09/28/whats-in-the-box/

上記の中に、以下を発見

・・・Anais Nin, who I assume inspired the name of the brothel in Belle de Jour and its Madame.