風の旅人

リアリティのダンスの風の旅人のレビュー・感想・評価

リアリティのダンス(2013年製作の映画)
3.5
「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」
(村上春樹『ノルウェイの森』)

当初息子アレハンドロのものと思われた物語は、中盤から父ハイメのものへと転化する。
ハイメは無神論者の共産主義者で、スターリンを崇拝し、チリの大統領イバニェスの暗殺を試みる。
しかしその過程で自分とスターリンとイバニェスが実は同類(独裁者)であることを発見し、改心する。
アレハンドロにマッチョな男性像を押し付けていたハイメは、自身の弱さを曝け出し、アレハンドロと和解する。
ホドロフスキーの代表作『エル・トポ』を語り直したようなストーリーに、原点回帰を窺わせる。
序盤の浜辺に打ち上げられた魚を鳥が啄むシーンが表すように、ホドロフスキーは苦しみと喜び、生と死という一見対極的なものを隣接させる。
聖と俗が入り混じったホドロフスキー独特の表現は、観る者を原初(カオス)の世界へと立ち戻らせる作用を持つ。
特にペストに罹ったハイメに妻のサラが聖水を浴びせるシーンが強烈な臭気を放ち、脳裏に焼きついて離れない。
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