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ゲームの規則のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

ゲームの規則(1939年製作の映画)
3.9
ミュッセの戯曲「マリアンヌの気まぐれ」に想を得て、上流階級の恋愛ゲームを描いた社会風刺劇。
興行的には惨敗したが、後に「カイエ・デュ・シネマ」で注目を浴び、ジャン・ルノワール監督の最高傑作とされ、フランスでの評価は絶対的。
撮影はジャン・バシュレ、ジャン・ポール・アルファン、ジャック・ルマール
アラン・ルノワール。
衣裳はココ・シャネルが担当。
原題: La règle du jeu  (1939、モノクローム)

リンドバーグから12年後、大西洋横断飛行に挑んだアンドレ・ジュリユーが23時間(記録的的速さ)でブールジェ飛行場に到着し、熱狂的に迎えられる。
しかし、アンドレは差し出されたマイクに、あるひとが出迎えに来ていないと不満を漏らす。
そのひと、ラ・シェネイ候爵夫人クリスチーヌ(ノラ・グレゴール)は、その時パリの邸宅にいて、小間使いのリゼツトに衣装を手伝わせながら、そのラジオ放送を聞いていた。
夫のロベール・ド・ラ・シェネイ候爵(マルセル・ダリオ)もまた、愛人ジュヌビエーブ(ミラ・パレリー)と秘かに関係を続けていたが、そろそろ手を切りたいとも考えていた。
アンドレの親友で、クリスチーヌの相談相手でもあるオクターブ(ジャン・ルノワール)は、密かに思いを寄せるクリスチーヌに働きかけ、ラ・シュネイ家の領地コリニエールで催される狩猟の集いにアンドレを招待させる。
一方、ラ・コリニエールの森番シュマシェール(ガストン・モド)は、公爵に気に入られ使用人となった密猟人のマルソー(ジュリアン・カレット)が妻リゼットに色目を使うのを見て、彼を追い回す…。

~登場人物~
・クリスティーヌ・ド・ラ・シェネイ侯爵夫人(ノラ・グレゴール):当主の妻。オーストリア出身。移り気で惚れやすい。
・クリスチーヌの小間使い、リゼット(ポーレット・デュボスト):主人を慕い、森番の夫マルソーと別れて暮らす(クリスチーヌと離れるなら離婚する覚悟)。密猟人マルソーと仲よくなる。
・ジュヌヴィエーヴ・ド・マラ(ミラ・パレリ):ロベールの愛人。
・クリステーヌの姪、ジャッキー(アンヌ・マヤン):飛行家アンドレに気がある。
・シャルロット、マダム・ド・ラ・プラント(オデット・タラザック)
・マダム・ド・ラ・ブリュエール(クレール・ジェラール)
・ラジオ・リポーター(リズ・エリナ)

・ロベール・ド・ラ・シェネイ侯爵(マルセル・ダリオ):当主。結婚前からの愛人ジュヌヴィエーヴと関係がある。
・密猟人、マルソー(ジュリアン・カレット):当主に気に入られ、使用人にしてもらう。リゼットと仲よくなる。
・飛行家アンドレ・ジュリユー(ローラン・トゥータン):クリスチーヌに執心。彼女のため大西洋横断飛行に挑んだ。
・リゼットの夫、森番(密猟監視人)シュマシェール(ガストン・モド):仕事の都合上、妻と別れて暮らすが同居を希望。
・オクターヴ(ジャン・ルノワール):当主ロベールの食客。アンドレの友だち。クリスチーヌの父(音楽家)の弟子で、指揮者を目指したが挫折。
・将軍(ピエール・マニエ)
・執事コルネイユ(エディ・デブレイ)
・サン・トーバン(ピエール・ナイ):パーティーでクリスチーヌと仲よくなる。
・ブリュエール(リチャード・フランクール)
・料理人(レオン・ラビエール)

"双眼鏡"の先
"マント"と"コート"と"勘違い"
"○○の新しい定義"

「心優しく貞節で浮気心をとがめる皆さん、恨みつらみは捨てなさい。心変わりが罪とでも?キューピッド(愛の神)には翼があって飛び回るのが当たり前」
(ボーマルシェ「フィガロの結婚」)

「男との友情はどう?
男との友情?。ありえませんわ」

「ウソは"重すぎる服"だわ」

「社会における恋愛は"両者の幻想の交換と皮膚の接触である"」

「僕を屋敷に喚び友と呼ぶ人から説明ひとつせずにその妻を奪えない。
愛しあっていれば十分でしょ。
規則というものがある」

さまざまな人々が登場するセリフのオンパレードと、奥行きを重視しながら移動するカメラワークが特徴。
個人的には、ノラ・グレゴールが今一つ魅力に欠けるような気がするがフランス人好みかも知れない。

ピエール・マイヨー著「フランス映画の社会史―マリアンヌのフィアンセたち―」によると、
「彼は…ネジを探すことに心を奪われる。ここで、観客はすべてを理解する。ラ・シェズネイ侯爵とはルイ16世である、と。…パリの館はチュイルリー宮であり、ラ・コリニエールの邸とは…ヴェルサイユ宮殿である」
(サブタイトルの「マリアンヌとはフランス「共和国」の理念であり、その象徴である。同時にマリアンヌはフランス革命の象徴であり、国歌「ラ・マルセイエーズ」を肉体化したものでもある。そしてまた万人を受け入れる土地である自由の国の象徴である。マリアンヌは、ドラクロアの絵画に典型的なように、腕を高く上げ、三色旗を振りかざし、民衆の先頭に立つ。マリアンヌこそが人権宣言を作り出し普遍的な民主主義の概念を世界に広めた。彼女は人種や宗教の違いを乗り越え、経済や政治の壁を打ち破り「自由・平等・友愛」という革命の普遍的三原則を世界に宣言した。」←ちなみに、フランス共和国政府の公式ロゴは「マリアンヌ」です)
そう言われてみると、なる程、と思う。
この映画の時代設定は1939年。公開日はフランス革命150周年記念日直前の1939年7月12日。
公開から2ヶ月後の1939年9月に第二次世界大戦が始まり、フランスは1940年にナチス・ドイツの侵攻により敗北して第三共和政は崩壊、傀儡政権(ヴィシー政権)が成立し、この作品は上映禁止に追い込まれる。
大戦前夜1939年当時のブルジョア社会の実態は、フランス革命前夜の状況と同じだということだ。
そして、映画では、庶民(労働者階級)に世の中を変革する力はなくブルジョア階級によって物事は収まり、何事もなかったように秩序は回復する。
さて、フランスのアイデンティティである「自由・平等・友愛」の精神はその後、フランス及び世界にしっかり継承されて(受け入れられて)いるのだろうか?
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