荊冠

ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズの荊冠のレビュー・感想・評価

5.0
石岡瑛子の回顧展からたどり着いた。
三島の同性愛的描写に瑤子夫人が反対し日本では公開されなかったそうだが、そんなに反対するほどのものかなあという程度。夫人が抗議する気持ちも分からなくもないが、それによって多くの日本人がこの映画を見逃してしまっている損失を考えるとどうにも歯がゆい思いがしてしまう。
作品世界と三島の自決までの過程が巧妙に混ざりあい、その美学、切羽詰まった思いが見ている側にも否応がなしに押し迫ってきて、完成度の高さには正直驚かされた。それは何故今まで本作を知らなかったのかという悔恨の念でもある。
石岡瑛子デザインのセットも先鋭的で、一応作中で取り上げられた『金閣寺』『鏡子の家』『奔馬』は読んだことはあるにせよ(『文武両道』だけ未読)、「こんな話だったんだ」と新しい視点を与えてくれるような刺激に満ちている。三島の、ともすれば男臭くなってしまう世界をスタイリッシュに、ともすればただの右翼的信条の暴走と取られかねない切実さを豊かな叙情で演出せしめた石岡のデザイン力には脱帽という他ない。
こうした海外映画の日本語はどうせ分からないだろうと大根役者の棒読みなことが多いが、俳優の演技も良く、日本人が見ても全く違和がない。沢田研二が出てきたのにはちょっとビックリしたけども、破滅型の青年を演じさせるならやはり彼だったろうと納得させられてしまうところ、名配役である。
鑑賞後の余韻も形容しがたく、それまであくまで自身にとって一作家でしかなかったミシマという人間に、観終わってから途方もなく魅了されてしまったことに気が付いた。実は本作は三島のウィットとユーモアに溢れた人間性もきちんと描いていて、それ故にこの華々しく血なまぐさい破滅を選んだ、本来なら次元の違う人として遠くから眺めやるに過ぎない天才に、温度のある愛着を覚えてしまうのだ、たまらなく憎い仕掛けである。
気が付けば本棚から三島の著作を引っ張り出していた。つくづく日本に知られてないことが惜しい映画である。
荊冠

荊冠