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42〜世界を変えた男〜のTSのレビュー・感想・評価

42〜世界を変えた男〜(2013年製作の映画)
3.6
【やり返さない勇気】76点
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監督:ブライアン・ヘルゲランド
製作国:アメリカ
ジャンル:ドラマ・スポーツ
収録時間:128分
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 人権映画として鑑賞しました。野球映画なのですが、黒人差別という重いテーマが内在しており、勉強になる映画と思いました。アフリカ系アメリカ人のジャッキー・ロビンソンの軌跡たどる伝記映画でもあり、彼の葛藤や苦悩が伝わってきました。舞台は戦後の1945年あたりからスタートします。ブルックリン・ドジャース会長のリッキーに誘われ、最初は戸惑うものの誘いにのっていきます。彼が戸惑うのも無理はありません。何故ならば当時黒人の差別はかなりのものでして、人種隔離政策が依然として残る状態でありました。キング牧師の公民権運動はもう少し先の話であり、平気で黒人に対して不愉快な言動を放つ白人が後をたちません。そんな中、白人だらけの野球チームに入団したらどうなるかは容易に想像できます。

 タイトルの42はロビンソンの背番号であり、今でもこの番号は永久欠番となっています。そんな彼は伝説となっていくのですが、やはりそれまでの道のりが大変でした。ロビンソンは会長に「やり返さない勇気」を持つように言われます。これは口で言うのは簡単ですがなかなかのものです。今作でそれが一番酷なものであるとわかるのが、中盤のチャップマンによる暴言でしょう。あれだけのことを言われて腹を立てない人間なんていないでしょう。ロビンソンも流石に我慢できず拳を出そうとしますがなんとか乗り越えます。非常に理不尽なことに、手を出してしまえば黒人が非難される、そういう社会構造なのです。今でも、どんな理由であれ手を出した方が負けという理論もありますが、白人はそれを逆手にとって挑発をしていくのです。ところであのシーンは、チャップマンがひたすらロビンソンのことを悪く言うことでおさまっていましたが、愛人や大切な人を罵倒していたらロビンソンは我慢できなかったのではないでしょうか。

 現代となっては黒人はもちろん、どんな人種であれ平等の立場として尊重されるという考えが浸透していますが、これも教育によるものでして、残念ながら人間の本能はそうではありません。いわば思想を矯正されたのが現状の世界であり、人間の元々の愚かさが浮き彫りになってきます。ここの感想で何度も言っていますが、人間は自分と異なる存在の者が日常生活の空間に闖入してきたら、戸惑ってしまいます。その戸惑いは恐れとなり、排除しようとするのです。今でこそいろんな肌の色の人種が共存する世の中ですからそういう感情は少ないのですが、半世紀前のアメリカではそうはいかなかった。つい最近まで奴隷として扱われてきた人種を、同等の立場で扱えなんて無理だ、と思う人が多数いたのでしょう。

 そしてこういう偏見というのは、大人の言動を見て子に伝わっていくのだということが如実にわかりました。地味に今作最大の印象的なシーンは、ロビンソンが活躍する試合を見ていた白人の子どもが放った言葉のところだと思いました。その子は、大人の言動を聞いてからその言葉を発します。子は大人を見て育つとはまさにこのことなのです。子には罪はありません。大人が社会を動かしているのだから、大人がしっかりとしていかないといけないのです。

 ということで、人権映画としては申し分ない作品なのですが、野球映画としてみたらやや物足りなく感じるでしょう。カメラワークが微妙でして、野球のシーンは臨場感に欠けます。まあそのあたりの要素は重要ではないのですが、ラストの試合の見せ方がかなり微妙でしたので感動が半減してしまうのではと思いました。道中がよかっただけに少し勿体無いなと感じました。
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