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私の、息子のemilyのレビュー・感想・評価

私の、息子(2013年製作の映画)
3.8
ルーマニアの首都ブカレスト。セレブリティのコーネリアは30過ぎても自立できず悪態ついてる息子バルブのことが気がかり。シングルマザーの恋人にも不満を募らせ、息子に歩み寄ると向こうからは拒絶されてしまう日々。そんなある日が交通事故に合ったと知らせが入った。相手は子供で死んでしまったのだ。なんとか息子に不利にならないようにと取り調べの場を仕切り、供述書を無理やり変えたりする。息子のためにとあらゆる手段に出るが、息子には全く響かず殻に閉じこもってしまう。カルメンから衝撃の告白を聞き・・

母と息子の関係性とは一種独特で、娘とのそれよりはるかに深いように思える。それぞれの関係性にはそれぞれの積み上げた歴史があり、それは他人には理解しがたい部分である。しかし当事者にとって当たり前と思っていることが、傍から見たら喜劇に映る。それは自分の親子関係と比べるとどこかずれているからだ。コーネリアとバルブの関係性もそのズレに当事者たちは全く気が付いてない。母が頑張れば頑張るほど、息子は遠ざかり、それがゆがんだ愛情であることにまったく気が付かず、深みにはまっていく描写が非常に繊細に行われ、揺れるカメラと硬い表情を食らいつくようにとらえ、その一瞬の変化も見逃さない。張り詰めた空気感はラストまで糸を張っており、スリリングな展開に追い詰められていく。

母親が自分のコネをフル活用して、みるみる事を解決に導いていく、一人舞台はまさに喜劇としか言いようがない。父親の存在は、親子という枠組みにすら入れない、母と息子の関係性のあくまで外側に配置されており、無関心を装っている。

バルブは自分で何も決めることができない。母親がすべて先回りでやってしまうからである。そんな日々に苛立ちとあきらめが交差して出てくる悪態にはリアリティがあり、その苦悩が伝わる。しかし物語は二人を軸に、父親、そうして何より大きく物語に深みを持たせるのはカルメンの話す、息子のセックス感であろう。そこには母への思いにつながっていき、その裏を返すとしっかり愛情にあふれていることが読み取れる。

そこに複雑に絡んでくる社会情勢もさらに奥からえぐられるように、ストーリーに臨場感をもたらしている。
あくまで加害者目線で物語は進むが、どんなに大きくなっても親にとってはいつまでもかわいい子供であり、それは被害者の親と全く同じ立ち位置である共通項を叩きつけてくる。コーネリアの訴えは矛盾しており、勝手だが、息子を守るためには何だってできるという思いは、子を持つ親なら誰しもが思うことであろう。しかし愛情とは与えるだけではない。時には遠くからただ見守ることも大事なのだ。遅すぎる息子の自立、そうして遅すぎる息子立ち、でもそれに気が付けたことが未来へ一筋の光を放つ。
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