幌舞さば緒

甘い鞭の幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

甘い鞭(2013年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

本当に私のことを殺しに掛かってくる、タケオさん級にヤバイ存在にもう一度巡り合いたい。そんな相手を殺したい。殺す。〝悍ましい者を葬った、葬ってしまった悍ましい私〟は本気で自ら命を絶とうとする。もしその時、そんな私のことを温かな湯のように包み込み、愛し、心の奥底から救出してくれる人が現れたらその人こそ私の…みたいな。主人公を演じた二人の役者の熱演も凄いけど、不気味すぎるタケオさんの役を演じた役者の方も凄まじかった。拍手


台詞メモ

「大丈夫よ、ミサキさん。あなたは何にも悪くないの。あなたは何一つ悪いことはしていないのよ。何にも心配することはないの。私がちゃんと元の体に戻してあげるからね」

女医のその言葉は両親の意外な反応に冷え切ったナオコの心を温かな湯のように包み込んだ。多分、その女医がいたからナオコは自分も医者になろうと思ったのだ。自分もあんな女医のように温かな湯のような存在になろうと思ったのだ。あれから15年、時間の経過と共に、その悍ましい事件の記憶は人々の脳裏から忘れ去られていった。しかし、私はその事件を忘れることはひとときもない。今でも私のすべてをあの忌まわしい日々の出来事が支配している。

「母さんの形見の姿見。食べなきゃダメだよ。それ嫌い?よくピザのデリバリー取ってたから好きかと思った」

これはプレイ用の鞭。音は凄いがあまり痛くない。半分お芝居で客がそれを気づく時もある。

「本当の鞭ってのはな、あんなもんじゃないんだよ。肉が裂けてな、血だらけになってxxx勃つどころか縮み上がっちまうよ。血まみれの化け物みたいな女抱きたいなら別だけどな」

「おい、お前なんでM嬢なんかやってんだよ。え?レイプとかSMとかされて、それで目覚めて忘れられなくなったのか?なあ、白状しねえと体に聞くぞこら」

「長いこと監禁されてるとな、犯人に同情したり心が通じ合ってしまうんだよ。SMされたり、レイプされたりで最初は嫌でも段々気がいくようになって快感になるんだよ。最初は嫌でもそのうちよがってよ、イヤよイヤよもいいのうちってなあ」

客がストックホルムシンドロームのことを話している。しかし、私は違う。男は一方的に愛を告白し、彼の理屈で私を弄び、家族と私の関係をめちゃくちゃにした。それだけだ。彼に同情したり、xxxxを重ねているうちに体が反応してしまい、あの男を好きになってしまった。なんてことは一度もなかった。ただ、いつか殺されるという恐怖と、肉体的な苦痛の毎日でしかなかった。家に帰りたい、みんなのところに帰りたい…っと。

「もう1週間だよ!いい加減諦めないと。お願いだから…諦めてくれよ!」

「ああ…ごめん!…ごめん!好きなんだ!昔から。裏の家の美少女が大好きで二人でこうやって過ごすのが夢だったんだよ。分かってくれるかい?」

あの地下室には浴室がなかった。だから私はお風呂に入ることができなかった。男は大きなたらいにお湯を満たして私の身体を洗ってくれた。それが優しさとでも言いたげに。男は私が心を許し始めたとでも思ったのだろう。私はただどうしようもなく疲れ果て、抵抗しなくなっていただけなのに。

「半月も行水じゃ体に悪いよ。二人でずっとここで過ごすと約束してくれたら上の広い風呂に入ってほしいんだけどな。お風呂に入って…まだ諦めてなかったんだね。仕方がない、お仕置きだよ」

「ちょっときみ。セリカさん、今度は役割を交代してみてください。君が木下さんを鞭打ちなさい」「ダイゴさん、それはできないんですよ。この子は鞭は使えないんですよ。うちはそういう決まりなんです」「私は君が打たれるのを見てみたいんだ」「でもうちのクラブではそういう決まりなんです。そういう契約しかしてないんですよ」「私は木下さんが打たれるのを見たい。もしできないなら…どうぞ、お引き取りください。あなたとの縁は切らしてもらいます。さあ…どうします?木下さん。打たれるか、それとも…」「分かりました。ダイゴさんのおっしゃる通りにいたしましょう。今夜は、私がセリカに打たれることにします」「木下さん、このベッドに仰向けになってください」「仰向けですか?一体何をなさるおつもりですか?」「あなたは質問などせず言う通りにすればいい。さあ早く」「セリカさん、手伝って」「はい」「両手両足を伸ばして。そう」「なんでお前が縛るんだよ!」「木下さん、うるさいよ」

「りんご汁、飲んで。ほら、飲んで。ほら、ほら、ほら」

熱が下がりほっとしたのか、同情を買う気だったのか、男は自分語りをした。父親が外科の勤務医、母親が内科の勤務医で…知ってたが知らないふりをした。両親が忙しすぎて一家団欒もなく仲が悪かったことや、子供を可愛がってるところを見たことがない、両親が頭が良すぎるのも考えものよね…と母が言っていたのを思い出していた。

「母さんのお腹に入っていた頃から聞こえてた。結婚した人と毎晩聴こうと思ってた。医学部の受験に3年続けて失敗し…」両親に呆れられ、それでまた両親は喧嘩の毎日で、俺はダメ人間、それも母から聞いて知っていたことだが…「親父家を出て、ママが病気で急死してからずっとひとり。慣れてるけど…」そんなことはどうでもよかった。人をいきなり暴力で拉致、監禁して、俺は孤独だなんてよく言える。散々な目に合わせて殺されるんじゃないかと私は24時間、恐怖に怯えていた。

「りんご食べたい」「え?本当に?」

「ごめんなさい…」「喋らないで。捨ててくるから。食器洗ってくるから横になってて」

「木下ケイコの悲痛な訴えを聞いた瞬間、私の中でセリカ自身が鞭打たれてる時とそっくりの快感が…いや、それ以上の強烈な快感が広がった。打ちたい…木下ケイコを。懸命に許しを乞うてるこのたくましいレズビアンのサディストをもっと強く、もっと激しく、意識を失うまで打ち据えたいと」

あの瞬間、私の口の中に〝何か奇妙な味〟が漂った。奇妙な味、あれが一体何だったのか。あの味を確かめたくてこのクラブに入ったのだが…違う、違う。この味でもない。

「入ってくんじゃないわよ。録画なんかしてないでしょうね?消しなさいよ、削除!」「すみませんでした。いい気になって」「いいのよ。セリカにはなんの落ち度もない。ダイゴ先生もあんなに喜んでくださって。また来てくれるって」「傷口、治療なさった方が…」「情けないわよね。あんなによがっちゃって」

「あなたの評判を聞いて是非って。神聖サディスト」「神聖サディスト…」「怖いかな?」「9時頃からでよろしければ」

木下ケイコが〝神聖サディスト〟と言っていたこの男、あの格好…ただの変人?究極のナルシスト…「お前、木下さんのとこは長いのか?」「はい、2年ほど」「上から見下してものを言うな」「失礼致しました。申し訳ありません」「お前、本物のマゾヒストなんだってな」「はい、多分そうだと思います」

「隠したナイフで…僕を殺して逃げる気だな?」「殺すって?」「どういうことだ。説明しろ。畜生…なんとか言えよ、どこに隠した」「苦しい」「よくも…よくも裏切りやがって」

「お前ここから生きて帰れると思うなよ。お前マゾヒストだろ。だったら喜べ」「乱暴はやめてください…」

「いいんすか?この男、先週もサトミを半殺しにしてるんですよ?」「いいんじゃない?放っておけば。神聖のサドとマゾ、どうせプレイでしょ。安全が保証された恐怖ってやつ?」「この男マジ狂ってるからなあ」「馬鹿じゃないの?死ねばいいのに」

「契約違反…ルール違反です…」「契約違反だと?そんなもの俺には関係ない。俺は今夜お前を殺す」

「いや、タケオさん許して。お願いだから許して」「許す?だってナイフを盗んでないんだろ?濡れ衣なんだろ?だったら許すも殺すもないだろ?」「何でもする。xxxxも拒まない。だからお願い、許して。堪忍して!」「1ヶ月だよ?それでも裏切ったんだ。許すわけにはいかない」「またナオコのことベルトで叩くの?そうなの?イヤだ!お願い、願い!ぶたないで!何でもする、だからぶたないで!」「どこに隠したんですか?」「知らない。ナイフなんて見たことない」

鞭打たれながら放尿し、涎を垂らし、腰を突き出して薄ら笑う自分の淫らな姿を17歳の少女を見つめていました。そう、あの時も口の中で奇妙な味が漂っていました。でも違う、私が求めているのはもっと違う記憶。もっと違う味。あの甘い味を味わいたくてこのクラブに入ったのに…結局2年間、あの味の記憶は戻らなかった。今夜の〝神聖のサディスト〟ならそれを思い出させてくれるかもしれない。ナオコ…いや、セリカは…。

気づいたら何処か知らない吹き抜けの屋根裏で男はナイフでセリカの服を切り刻み、「殺すぞ。殺して俺もここから飛び降りて死ぬからな」と耳元で囁き続け、さらに男は一番痛い鞭を取り出して「お前をなぶり殺しにする」とぶつぶつ言いながら鞭でセリカを打ち続けたのです。落ち着きなさいナオコ、落ち着きなさい。しかし、鞭で打つことよりは人をなぶり殺しにすることにあの男の興味はあったのです。「今日が俺の人生最後のプレイだ。お前を殺して俺も死ぬ」と繰り返していました。

「今日は食事なし」…「帰りたい…あ母さん」

最初はいつもの約束されたプレイかと思ってたのですが、手加減を知らないやり方に私、あ、セリカは恐怖に慄いて必死に逃げようとしました。でもナオコは違ってた。その先が見たかったんです。何故ってナオコの口の中には、あの時のあの甘い味が漂い始めていたからです。

「来て、もっとめちゃめちゃにして。ねえ来て」

「拭いてください」

「セリカを犯して、殺す前にめちゃくちゃにして」

「畜生…殺すんだった。結婚して、二人だけで楽しく…何も楽しいことなんかなかったけど、君が…」

「何やってんの馬鹿、遊びじゃないの!?」

「もうひとりいた。…誰?」
幌舞さば緒

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