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ラブバトルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ラブバトル(2013年製作の映画)
4.1
 辺鄙な田舎を歩くエル(サラ・フォレスティエ)の姿、黒のオーバーを羽織っているが、ミニスカートに生足で舗装されていない砂利道を歩いている。左官職人のルイ(ジェームス・ティエレ)は土壁を平らにしている。エルが久しぶりに故郷を訪れたのは、亡くなった父の葬儀のためだった。ルイに父の遺産整理をするため、姉と共にしばらくこの地に留まると告げるエルだったが、女の突然の来訪に男の態度はどこか冷淡だった。かつて2人は男女の関係になりかけたことがあったが、未遂のまま自由奔放なエルは都会へ旅立った。あれから数年、女の突然の来訪にルイは戸惑う。ある夜、パニック状態で駆け込んで来たエルをルイが部屋に泊めた。彼女は男を誘惑したが、ルイはそれを受け入れることが出来なかった。苦い記憶が不意に甦る男をよそに、彼女はファム・ファタールのような笑みと余韻を残し去って行く。一方で彼女は、父の遺産を巡って家族との確執を抱えていた。家族は気性の激しいエルの存在を持て余していた。遺産相続の席、他に何もいらないからおじいちゃんが好きだったピアノが欲しいという彼女の要求を、姉は兄の子供が使うからという理由で拒む。

 自由奔放な妹と常識人な姉とのピアノを巡る確執、遺言書で祖父から除外された父親の隣人であるルイとエルとの関係性は最後まで明らかにされることはない。エルにとって上京前、彼と一度は結ばれかけた愛の記憶だけが2人を支配し、女はその答えを求めて隣家を訪れるが、男側としては決して幸せな来訪ではない。父親という一家の大黒柱を失った喪失感は既に社会に出た3兄弟にも重くのしかかり、遺産相続や財産分与で罵り合う。だがその束の間の時間にエルは引っ張られるようにルイに会いに行ってしまう。2人の関係性は当初はインテリな会話の応酬に見えたものの、その実、肉体的には爆発し合う。毎回ノーブラにキャミソール姿でやって来る女の誘惑ぶりもなかなかだが、ルイは若いエルの姿に欲情するものの、その様子を噯にも出さない。一回り年の離れた男との恋は、愛の「授業」ではなく「闘い」となる。あの夜と同じ気分になれたらという仄かな思いは互いの鬱屈した思いに掻き消され、男と女はそれぞれがどう猛な獣と化す。1000ユーロの価値と見なされた形見のTRIUNPHのピアノ、死者のカメラで撮ろうとしたある愛の行方、手持ちカメラの自然主義的な映像から一転し、後半突如登場するリバース・ショットの獰猛さ。普遍的な愛の物語はいつしか原始的な男女の営みに代わり、男と女は身を削りながら愛し合う。
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