高卒派遣社員

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンの高卒派遣社員のレビュー・感想・評価

5.0
思春期の息子をひとりで育てる女性の3日間を描く3時間20分。1日目で彼女の家事ルーティーンが脳裏に植え付けられ、同じことが2日目も徹底的に繰り返される。同じように見える光景の中に小さな変化が積み重なり大変なことになる。

3回同じことが繰り返され、なおかつ微妙に変化していく展開はホン・サンスの映画を連想させる。結末は彼の最初期作『豚が井戸に落ちた日』に近い。それにしてもシャンタル・アケルマンは当時25歳でこの映画を撮ったとか凄すぎる。

「これぞ真のアクション映画」との声もあるが本当にそのとおりだと思う。劇中のジャンヌ・ディエルマンが動くリズムが観客に叩き込まれ、後半にかけてそのリズムが崩れていく。画面に映っているものだけを見ればただの家事。そこから浮かび上がる抑圧やかき乱される心が手にとるように伝わってくる。

ジャガイモをむいたりコーヒーを淹れる単調極まりないショットに釘付けにさせられる。”ジャガイモはナイフを手前に引いて剥くのか””お湯を注ぐときはちゃんと蒸らしてるな”とか考えながら彼女の動くリズムから何かを読み取らざるを得ない。

事前情報を全く入れずに観たことで、衝撃的なラストに殴られたような感覚になった。傑作という言葉では全く足りない。人生で一本出会えたら素晴らしいレベルの作品だった。
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