ハマジン

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのハマジンのレビュー・感想・評価

4.0
再見。思いのほか第二次世界大戦の痕が刻まれた作品だったことに、今さらながら気づく。ジャンヌの死んだ夫は、二人が出会った当時連合国軍として従軍している(「チョコレートやチューインガムを配った」とあるので、おそらく米国系?)。また、ジャンヌの両親も戦渦に巻き込まれて亡くなったのではと推察される。ゆえの二重三重の「根無し草」的状況(数少ない親戚の妹はカナダ在住のためブリュッセルには身寄りがおらず、息子はフランス語をまだ流暢に発音できず、フラマン語をこれから学習しようとしている)がジャンヌをとりまいていることが、作品の背景としてまずある。
几帳面なリズムを刻む日常の身振り、その不具合が玉突き事故のように積み重なった先、何もすることがないただひたすら空虚な時間が隙間から漏れるように現れはじめる。そこから滲み出す癒しがたい孤独。
妹から送られた誕生日プレゼントが、思わぬ凶器を画面内に呼び込むことになる。台所の電気を消した瞬間、引き出しから取り出したその刃がキラリと閃くくだりに、本作が「サスペンス映画」の系譜に連なる側面を持ち合わせていることにも、今回改めて気づかされた。
あと、交わされる数少ない会話がダイアローグとしての体をほとんどなしておらず、ひたすら各人のモノローグにしか聞こえないあたり、アケルマンの病み度の深さを思い知らされる。さすがカウンセリング・コメディ『カウチ・イン・ニューヨーク』を撮った人だけある。

※一箇所字幕誤植を発見。『エリーゼのために』イ単調× → イ短調○。ソフトでは直ってますかしらん。
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