幕のリア

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンの幕のリアのレビュー・感想・評価

4.5
ブリュッセルには一度行ったことがある。
パリ北駅から高速鉄道に乗り2時間ほどだったか。
マーケティングリサーチと称して一日時間を作って、リサーチらしき事を最低限こなして、朝市(ゴミしかなかった)、夕方からマグリット美術館、バケツ一杯のムール貝とビールを楽しんだ。
本作に映るガランとした朝の情景から、冷たく乾いた空気がフラッシュバックした。

〜〜

ルーティンを無駄なくこなす姿はエレガント。
情婦に化ける合間に料理を煮込む。
部屋の入退室ごとに灯りはスイッチオン、オフ。
シャワーの水量は最低限、タオルを濡らしては汗を拭い、また濡らす。
スープの後のメイン。
食後の息子との語学レッスン。
ラジオをつけて束の間の編み物、1コースも編めてない。
散歩、就寝。 
次の朝…

近所の赤ちゃんを預かる。
ここでもルーティンに頑な。
預かる=あやす。
眠たい赤ちゃんを無理やり抱き起こし、赤ちゃんは狂ったように泣き叫ぶ。
赤ちゃんを横たえ泣き止んだと思ったら、再び抱き起こし赤ちゃんは再びスクリーム。
一連の行為が終わったら、何事もなかったように別の部屋へ。

エンディングに向け何があったか。
淹れたコーヒーがどうにも不味い。
添えたミルクが腐っている訳でもなさそうなのに。
昔カナダの妹から送ってもらったジャケットのボタンが外れている。
街中を歩き回ってもお目当てのボタンは見つからない。
家へ帰ると妹からのプレゼントが。
例のジャケットはサイズが合わずようやく最近太って着れるようになったらしい。
送られてきたのはピンクの寝巻き。
まさか気に入ってはいまい。
朝っぱら街の外れの自販機で買おうとしていたものは?
若者から嘲笑を浴びているのを見ると避妊具だろうか。
不快に覆い被さる男。
性行為とは思えないショット。
瞬時の抗いと諦念。
多分そういう事だろう。
行為の後、身支度しようともせず、無遠慮にベッドに横たわるランニング髭オヤジ。
爆ぜてもおかしくなかった。

絵画でも眺めるように静かに長いワンショットを見つめながら、なぜか飽きることもなく、最近のトラブルを振り返ったり、来週何をすべきか考えたり、不思議な映画体験だった。
幕のリア

幕のリア