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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのTSのレビュー・感想・評価

3.3
【ある女性の3日間の生活】73点
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監督:シャンタル・アケルマン
製作国:ベルギー
ジャンル:ドラマ
収録時間:198分
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 滅茶苦茶タイトルが長いこともさることながら、収録時間も滅茶苦茶長い。そして驚くほど何も起こらない。とあるシングルマザーの女性の1日を3日分、定点カメラで収めた作品であります。映画界では傑作と誉高く、2022年のイギリスの映画史上ベスト100でベスト1に輝いた作品だそうです。ただし、今作が描かれたのは1975年であるため、かなり遅れての評価になったと言えます。その理由は後述しますが、なかなかの異色作である故に万人ウケはしないと思います。現に、ジャガイモの皮を剥く作業のシーンだけで数分もありますし、普通の1日の行動をかなり長回しで撮るため、眠たい時に見てしまうとやられてしまうでしょう。ただ、それでも傑作と言われるのは、これ以上ないくらい人物描写を丁寧に描いているからでしょう。実際に我々が鑑賞している何気ない数分間の中で、この人は今どういう気持ちなのだろう、と考えてしまう場面があり、じっくりと作品に没頭できてしまうのです。

 タイトルはこのシングルマザーが住むアパートの住所であり、ジャンヌ・ディエルマンとはこの主人公のシングルマザーの名前です。思春期の息子のために淡々と料理を作り、掃除をしては買い物にいき、夜は息子と一緒に食事をします。ジャンヌが一人でいる時はほぼセリフがなく、静寂が続きます。実はジャンヌは息子が外に出ている間、売春行為を行なっています。やはり生活するためには金がいるので仕方ない部分がありますが、息子はこれを知っているのでしょうか。しかし、ジャンヌももちろん不本意でこれをやっているわけで、徐々にジャンヌの心境に変化が見られます。ごくごくわずかの違いなのですが、そのあたりを考察するのが非常に面白いと思います。例えば、いつもお金をしまっているツボの蓋を、2日目ではし忘れてしまうところなど、かなりのディティール描写が見受けられます。売春行為はともかく、それ以外は本当にごくごく普通の一人の女性の1日を収めただけの映画なのです。が、次どうなるのかな、この人は今どういう気持ちなのかな、という興味がでてきて、気づけば作品に没頭しているのです。

 とは言えこの形式で3時間越えですからなかなか退屈になってしまうシーンも多いでしょう。ところがこれだけの長いシーンも、全ては最後のわずか2つのショットのためだけに存在すると言えそうです。全てはここを描くため。となると唸らされてしまいます。あっけに取られて終わっていく今作なのですが、なかなか他では体験できない映画体験をしたように思えました。もう一度見たいとは思いませんが、記憶に残る作品となりました。

 最後に、今作が後世で評価された理由を述べて終わりますが、やはり今作はフェミニズム要素が強く、女の人は家にいて家事をするべきだ、という固定概念をふっとばすという気迫に満ち溢れています。あえて、淡々とそれらを描くことにより皮肉を最大限に示しているのでしょう。今作を手がけたシャンタル・アケルマンは女性監督であり、作成時はなんと25歳だったとのこと。彼女の作品はなかなか奇抜とのことで有名だそうですが、当初から彼女は女性の社会的地位の低さに疑問を持ち、映画でそれを表現していこうとしたのでしょう。当初はそれほど評価されなかったにせよ、男女平等を掲げる現代の事情に今作のメッセージ性がフィットし、再評価されたのだと思われます。
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