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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのあのレビュー・感想・評価

4.7
ジャガイモを剥く手にスリルを感じる日が来るとは思わなかったです。皮を剥がしていく刃先が芽に引っかかる度に募る日々の憤りが、デルフィーヌ・セイリグの伏した目からそっと伝わってくる。静けさが画面を豊かにする映画はいい映画ですね。

3時間半という「ゴッドファーザーII」規格に尻込みしていましたが、この作品については心配する必要がありません。ブリュッセルに住むこの平凡な主婦の日常は、時間がほぼ止まっているのです。息子は本の虫で、まるでジャンヌが親になれる一瞬も拒むようで、玄関先の会話も扉が閉まればハイおしまいで、男たちは自身の快楽以上のものを何も残さず帰っていく、この圧倒的に人間性から疎外された日常が束になって押し寄せてくる様は、永遠で一瞬です。

ただ、一つ残念なのは、アケルマン自身「街をぶっ飛ばせ」という痛快な短編を作っておきながら、それのセルフリメイクにならなかったところです。日常の動作の積み重ねが決裂していくことで全てが崩壊するというテーマは今作にも通じると思うのですが、何故か殺人というつまらない結末に落ち着いてしまいました。別に殺人エンドが悪い訳ではないですが、本作に関してはもっとこう...ね...

素晴らしいけど世界1位はないな...それならWANDAだろ...
あ