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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのmのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

2年ぶりに再見。といっても前回はバイト終わりに劇場で観てスヤスヤしてた。

アケルマンのフィルモグラフィーの中では異色の作とされる『ゴールデン・エイティーズ』はやはり本作とは趣の異なる作品ではあったが、両作品は共通して主に室内を舞台にしている。絵画的というクリシェじみた形容が、本作に限ってはかえってクリティカルに響くのだとしたら、我々は17世紀にオランダで成立した室内画の歴史に足を踏み入れることが求められる。室内画という言葉には、ある種の境界線がアプリオリに存在しているように思えるが、必ずしもそうではない。実際、主人公やその息子が部屋の電気の点滅によってシーンないし空間を切り裂くだけでなく、室内/室外といった境界さえも、備え付けられたカメラの位置や反復と差異を通じて浮かび上がってくる。アケルマンはあくまで映画的な、つまり被写体やカメラがアマルガムになった動きを徹底的に追求することで、20世紀に相応しい静謐で刺激的な室内画を描き出すことに成功している。

ところで、森繁久彌が上野のトンカツ屋でトンカツを揚げた(奇しくも、同年「餅は餅屋」ならぬトウフ屋・小津安二郎がその生涯に幕を閉じている...)、その12年後にブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地にてカツレツを作っていた主人公に一言。
豚肉にまぶすための小麦粉を机の上に直接撒くところがある種、料理人的(↔︎家庭的、または言ってみりゃ小林カツ代)ーー僕が一時期ハマっていた名番組『ブリティッシュ・ベイクオフ』(BBC)において、審査員にして巨匠、ポール・ハリウッド(『生焼けだ』でお馴染み)が自らその腕を振るってみせる際、彼も同じ手法を採っていたーーに僕の目には映った。登場人物の描写が何らかの典型である必要は全くないのだが、あの演出がどのような意図(社会/文化?作劇上?)でなされたのか、すこーしだけ気になる。

ところで、ところで、
『去年マリエンバートで』『夜霧の恋人たち』『ロバと王女』『ブルジョワジーの秘かな楽しみ』等にも出演する、レバノン・ベイルート出身のこの俳優がほんとーーに素晴らしい。生きていれば92歳になるのね、私のデルフィーヌ・セリッグ。
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