ハマジン

降霊 KOUREIのハマジンのレビュー・感想・評価

降霊 KOUREI(1999年製作の映画)
3.5
「あーあ、何かいいことないかなー」とポツリと呟く妻(風吹ジュン)の、この変わり映えのない停滞した生活が一生つづいて人生が終わるのか、という底の知れない深い絶望と、「あるよ。そのうち」とノーテンキに答える夫(役所広司)のひたすらな空虚。清ホラーのなかでもとりわけ平凡な夫婦、だからこそその救いのない地獄のドン詰まりが一層骨身に堪えるトラジコメディ。悪夢のような惨劇が明けた早朝、「行かなきゃ」「え」「仕事」と、機械的に日常を継続しようとする夫の否認の身振りが何より恐ろしい。「大丈夫。大丈夫だから」と妻を優しく抱きしめる、凡百の家庭ドラマなら感動の1シーンとなるべき仕草も、その実幼女を羽交い絞めにして布団で窒息させる動作とセリフの反復であることを考えれば、もはや引き攣った笑いすら漏れてしまう。「そもそも幼女の入ったコンテナの重さで気づくだろがよ!」と一瞬ツッコミを入れそうになるところを、「運ぶ」カットの周到な省略でシチュエーションを強引に成立させてしまう黒沢清演出。
田圃のど真ん中に取り残されたようにぽつんと建つ分譲住宅。ダイニングから階段を下ったガレージまで、入れ子構造が幾重にも連なる異様な屋内空間。その入れ子の中心に置かれた禍々しい黒コンテナ。その錠をガチャッと閉める役所広司の手のアップには、ブレッソン『やさしい女』ラストの棺の蓋を閉める動作を想起。
夫婦の吐くエクトプラズムじみた吐息。録音した風の音に混入した奇怪な声を聴いて体調を崩し、いつの間にかふっつりと会社に出てこなくなる同僚。平板なイメージがやけにリアルな真昼の幽霊たち。燃えるドッペルゲンガー。夫婦の地獄を取り巻く静かな恐怖の手触りを堪能する。
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