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陸軍登戸研究所のyadokariのレビュー・感想・評価

陸軍登戸研究所(2012年製作の映画)
3.5
「陸軍登戸研究所」を知ったのは堀江敏幸の短編連作集『雪沼とその周辺』だったか、チラッとその名前が出てきたと思う。当時登戸は通り道で、無差別殺人事件などもあって、気になる場所となっていた。

ただそれ以上のことは詳しく知らずに「陸軍中野学校」の特務機関で風船爆弾や偽札製造を行っていた。その繊細なドキュメンタリーでほとんどインタビューばかりだから興味ある人以外には、あまり注目されない映画かもしれない。

たまたま「新百合ヶ丘映画祭」の今年の話題作とあって、満席ソールドアウトの人気ぶりだった。それは登戸という場所が近く、そこに戦時中にこのような特務機関があるとは知っていても、その全容まで知る人がいないためだったと思う。「陸軍登戸研究所」が細菌兵器や諜報活動の「秘密戦」に関わっていたので戦時中にも国民には明らかにされることがなく、戦後は隠蔽されていたという。現在は明治大学の生田キャンパスに資料館があり無料公開しているという。


映画としては手持ちのカメラでインタビューを撮るだけなのでETVのドキュメンタリーより劣ると思う。映像は揺れまくっているし、3時間は長すぎるだろう。ただ貴重な証言ばかりなので内容はかなり興味深いことばかりだった。

実際に「風船爆弾」が飛ばされアメリカに落とされたのは9000個が挙げられたのに300ぐらいしか到達せずに、オレゴン州の6人の家族を殺人したぐらいの成果しか上げられていなかった。そのために付近の女子学生動員されてせっせと風船爆弾作りをさせられたという話だ。和紙でこんにゃく糊で貼り合わせるという作業で日本の物資不足の中でこんなことも行われていたのである。それ以上に興味深いのが偽札作りで、日本軍は物資もなくアジアでの戦争は補給部隊は現地調達だった。そのために略奪なども行われていたのだが、地元のヤクザ(中華系マフィア)と組んで、偽札で物資を調達していた。

上海では白系ロシア人や華僑らが日本軍に協力したのは、武田泰淳の小説にも書かれていたが、その内容はこうした特務機関の諜報戦とかかわっていたのだ。そしてその犠牲となった中国人に対しての非道(人体実験など)、戦後伴繁雄が『陸軍登戸研究所の真実』で明らかにしていた。その奥さんへのインタビューとかもあり興味深い話だった。


諜報戦は今だったら北朝鮮が行っているようなことばかりだ。たぶん北朝鮮はそれを日本軍から学んだのだろう。あるいは朝鮮戦争時にアメリカがこうした特務機関の者を活用したという。彼らは戦犯にはならずに密約としてアメリカ軍の下で働いていたのだ。そうした戦後にも影響を与えていたのだった。
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