アリ

陸軍登戸研究所のアリのレビュー・感想・評価

陸軍登戸研究所(2012年製作の映画)
5.0
これ笑えるという方もいるんでしょうが、私は全然ぐったりさせられてしまい、いや、つい微笑ましいと思ってしまう場面もあるにはあるんですが、全般的には、ひとがいかに普通に勤勉に楽しく人殺しに動員されるか、その良心の呵責を抱えるひとがいかに珍しく「普通じゃない」かが実感されすぎて酔いました。
家では見通せなかったと思うので、再上映ありがたかったです。

この冗長な無器用な構成がまた、登場するかたがたの凡庸さ善良さを味わうのには最高に必要な長さなんでしょうし、これだけのインタビューのボリューム、扱いのフラットさは資料的に素晴らしいものなんだと思います。
個人としての誰も悪人とは思わせないのに、構造としてのクソっぷりが三時間ずっとのしかかってくるしんどさのための冗長さであれば大成功です。

前半で軍のエライ方々がシモジモにも優しかったみたいな証言が出てますが、そりゃ潤沢な予算のある当面の徴用ない公的機関で立場によっちゃうまいもの食って羽布団で寝てるひとは優しいでしょうよとか、誰一人として戦犯になるでなく多くのかたが資本と技術力も活かして戦後も元気な日本をリードした成功者ばかりで良かったですねとか、一方で当時の日本人ですら効果を疑ってた風船爆弾で亡くなったアメリカのこどもたちとそこへ謝りにいく元女学生の姿とか。

シモジモが戦争に動員されるくだらなさがたっぷり味わえて、楽しく事実を語ってもらうだけでじゅうぶん厭戦映画になるなーっていうこともよくわかって、むちゃくちゃ面白いというわけではないですが、見る価値のあった映画です。
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