andy

大統領の料理人のandyのネタバレレビュー・内容・結末

大統領の料理人(2012年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

フランス料理はそんなに食べたことないですが、どれも美味しそうに見えて、それだけでも十分に楽しませてくれました。

キーワードは「虚飾」でしょうか。それは人間と料理、双方に言えると思います。

人間は虚飾とまではいかなくても、何らかの役割という飾りを身につけて生活しています。それは社会で生活していく上で不可欠なものです。しかしそれが行き過ぎると、しんどくなるのではないでしょうか。

大統領は政治の中心にあって、権謀術数蠢く虚飾の世界の真っ只中にいます。そんな生活の中で、昼食の料理はホッとする瞬間だったのかもしれません。しかし、そこでも派手な料理が多く、大統領は素材を活かしたシンプルな料理を希望します。ラボリは大統領の希望に応えるべく、持っている能力と情熱を料理に注ぎ込みます。そこには大統領に取り入ろうと言った邪心はなく、純粋に素敵な料理を大統領に提供したい思いがありました。それはラボリのプロの料理人としてのプライドでもありました。故に、ラボリは料理を介して大統領と意気投合できたのではないでしょうか。

ラボリの料理を見ていると、食べてくれる人への思いが料理に投影されて、料理を介してコミュニケーションをとっているように見えました。料理の持つパワーと言えるかもしれません。それを最大限に引き出したのがラボリの能力と情熱だったと思います。
また、シンプルな料理とは言え、私には全部豪華に見えて仕方ありませんでした。

一方エゼル宮殿の厨房では、シェフとラボリの対立や、コスト削減や大統領の栄養管理が重視され、ラボリは2年間孤軍奮闘しますが疲れ果てて退職します。厨房もラボリにとっては虚飾に塗れた世界だったのかもしれません。

エゼル宮殿を退職した後に就いた南極基地での料理人の仕事は、エゼル宮殿とは正反対の世界です。最初は基地の仲間もどこかラボリに距離を感じていました。しかし1年の間にその距離は埋まり、みんなオルタンスとファーストネームで呼び合う仲になっていました。

物語はドラマチックな展開があるわけでもなく、エゼル宮殿での2年間の出来事を淡々と描いています。
それが妙に心地よかったです。まるで、ラボリが心掛けて作ったシンプルな料理みたいに。
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