自家製の餅

大統領の料理人の自家製の餅のレビュー・感想・評価

大統領の料理人(2012年製作の映画)
3.3
大統領の料理人──そう打ったタイトルとはイメージの異なる荒れた海とカジュアルな服、市井の男たちが冒頭から現れる。
南極の基地で料理をしている女性が、かつて官邸にいたというところから話がはじまる。ふたつの時間軸が並行して進む形式だ。

あまりパーソナリティは明かされないまま、彼女の料理に向かう姿勢やその作品を落として人柄が語られる。
例えば、ロブションと名刺交換したとか、その繋がりから官邸の仕事にありつく(スカウト)が、それまではただのフランスの片田舎のおばさんにしか見えない。独身のようだが、娘がいるとのセリフがある(フランスなので、独身で娘がいるのかもしれないが)。
出身はフランスの外のようだが、伝統的なフランス料理をつくるなどなど…

砂糖の薔薇のような華美な装飾を嫌う大統領にマッチした、素朴で伝統的なフランス料理(正確には、各地方の)。ただ、それはシンプルとはいえ下ごしらえや工程、素材の選定はとても丁寧に描写されている。

現代的にはわかりにくいその姿勢は、メインの代厨房との確執や、経理などとも対立を生む。結果的にプラスな行いをしても、プロセスやプロトコルから外れると詰め寄られる。本作でも重要なエッセンシャルオイルであった「トリュフ」を手に入れに乗った電車代が「不正」とグチグチ言われるシーンが象徴的だ。


大統領にはあまり会えず、手応えを感じにくいながらも、偶然の面会の際などには心が通じている。下膳の皿見てギャルソンへ聞き、反応を知ろうとする。

序盤の華やかさはどこ行ったという感じで、深夜自宅でスーツ男に叩き起こされ、早朝スタッフのための朝食をつくらされる(彼女は大統領専属なので、今思えば嫌がらせか)。やる気なく、適当そうなハムサンドをつくる姿をスーツ達が見ている様々は、官僚的な業務構造の無能な一面の象徴に見えた。
他方で、南極では温かな交流が。そんなシーンが交互に繰り返させる。

助手のパティシエの若者がいい味出していた。
トリュフ、南極への出稼ぎ、そして新天地。食堂と厨房が一体になった基地での雰囲気は最高だった。

実話とのこと。