『キャプテン・フィリップス』(Captain Phillips)2013
ソマリアの海賊に襲われたアメリカ貨物船、船長の物語。
ソマリアはアフリカの東端の尖った所にある。国土面積はノルウェーやウクライナとほぼ同じ。日本の約2倍。人口は1625万人。
第二次世界大戦中はイタリア領だったこともある。西隣のエチオピアが古くからの帝国でありイタリア敗北後も強大な帝国として蘇ったのに対してソマリアは国内に幾つかの勢力が乱立し国家としてのまとまりを欠いてきた。
GDPは世界195ヵ国中193位の最貧国。「失敗国家」と呼ばれている。主な産業は農業。内戦による難民が沢山いる。識字率は37.8%。
映画は村の若い漁師ムサが長老から強制され海賊に加わるところから始まる。漁の稼ぎが少ないなら海賊で稼いでこい。
村人達がとにかくうるさい。大声で喚く罵るどつく。教育を受ける機会がなかった若者が感情(メンツやプライド)と暴力に任せて海賊に組み込まれて行く。海賊達は街のチンピラ。傲慢で短気で暴力的。そしてみんなとても痩せている。
対する貨物船の船長フィリップスは真面目で冷静沈着(実際は船員達から「独善的、傲慢」という批判もある。)
一時は海賊を速力差で振り切ったが船外機を増設したムサ達に乗り込まれる。
船員達を機関室に退避させ海賊と対峙するフィリップス船長の長い戦いが始まる。
とにかく緊張が切れることがない。状況は二転三転。船員達も黙ってやられたままではいない。画面から目を離せない。
貨物船が海賊に襲われた情報はアメリカ海軍に伝えられ駆逐艦ペインブリッジと特殊部隊SEALSが到着する。
海賊はフィリップス船長を人質に救命艇で脱出。海軍のネゴシエーターが船長の顔を見せろと海賊に要求。フィリップス船長は「自分は15番座席にいる」と伝える。
これはいずれ特殊部隊が強襲する、その時に誤って撃たれないように救命艇内の何処にいるかをあらかじめSEALSに伝えたのだ。
そして映画はSEALSが「こんな時にはこう対処する」という作戦通りにほぼ進んでいく。アメリカ軍の強さはこれか。最悪の事態を想定して計画しておく。
最悪の事態は起きないことにするどこかの国とは大違いだ。
最後に救出されたフィリップス船長を手当する看護兵は実は本当のアメリカ海軍の看護兵。淡々としかし常にフィリップス船長に語りかけながら怪我の様子を診察していく姿がリアル。こういうところで御涙頂戴にしないのもアメリカ映画の美点だ。
海賊のリーダー・ムサは「大金を手にしたらアメリカに行く」という夢を語っていた。皮肉な形でそよ夢は叶う。なんと空しいことか。