てつこてつ

愛の亡霊のてつこてつのレビュー・感想・評価

愛の亡霊(1978年製作の映画)
3.8
第31回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作品。

これもずっと前から見たかった作品で、「愛のコリーダ」同様に日仏合作映画。

「愛のコリーダ」はそもそもの題材からして、それこそ“芸術家かポルノか?”論争まで発展し、結局無修正版は日本国内では上映されなかった事実もあり理解できるのだが、本作の紹介文に“大胆なエロスをテーマに挑んだ問題作”と書かれているのには大いに疑問。

不倫の果てに夫を愛人とともに共謀殺人する人妻の姿を描いてはいるが、エロスとするには「愛のコリーダ」と比較するのはもちろんの事、性行為の描写なんかは他の一般作品なんかよりよほど抑えめ。1978年の製作時の他の商業作品と比べれば、多少大胆・・って程度かな。但し、今回鑑賞したU-NEXT版はフランス公開版より性描写の部分でカットされている可能性もあり。

自分は大島渚監督作品はNetflixでの「愛のコリーダ」と、小学生の頃にテレビで見た「戦場のメリークリスマス」しか鑑賞していないが、本感銘感銘を受けたのは、全シーンの画作りに拘りぬいた大島監督の徹底した完璧主義。和製キューブリックとも呼びたくなるが、大島渚監督は、やはり唯一無二の存在。

明治時代の東北地方の山村の描写、ローソクの灯りで映し出される登場キャラの顔の表情の陰影、殺害した夫を投げ入れる古井戸、不倫に溺れる二人の運命を暗喩するかのような夜の村に暗雲の如く深く立ちこめる霧・・
ワンシーンワンシーンがとにかく美しい。

妻の元に現れる夫の亡霊の姿も白塗りメイクだけというシンプルで一歩間違えると陳腐になりかねないところを、手の動きだけで無念さが伝わる演出や絶妙なライティングで素晴らしい仕上がりになっている。人力車のシーンなんて、まさにアート。

「愛のコリーダ」に続いての出演となる藤竜也の男っぷりもいいが、不倫に溺れる妻を演じた吉行和子が、撮影当時は既に40代を超えていたにも関わらず、とにかく艶っぽく、美しいし、身体を張った熱演が素晴らしい。

吉行和子と藤竜也が強く抱きしめ合うクライマックスの重要なシーンがとても美しく撮影されている。

殺される夫役に、藤竜也の野性味溢れる男らしさとは対照的な正統派二枚目俳優の田村高廣というキャスティングも見事にハマってる。
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