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NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲームのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.5
 アッパー・ニューヨーク湾の入口に位置するスタテンアイランド、この街に住むヴィーナス・デルモニコ(エマ・ロバーツ)は看護師の母親ナンシー(ジュリエット・ルイス)と2人で暮らしていた。高校の卒業を目前に控えていたヴィーは母親に、名門カリフォルニア芸術大学に合格したことを打ち明けられずにいた。MacBook Airに届いた大学からの催促通知。ヴィーはどうしても入学のボタンをクリック出来ない。ヴィーには兄貴がいたが数年前に他界。それ以来、母親の視線は常に自分に注がれることになった。食事中、ふと「家を出るから」と漏らした娘に対し、母親は即答で「ダメよ」と答える。彼女は母親をニューヨークに置いて、自分だけ進学しても良いのか自問自答していた。親友シドニー(エミリー・ミード)からのFaceTime。多人数参加型ゲーム「NERVE」について教えられるが心ここに在らずなヴィーは空返事で返す。残り少ない高校生活。文集に載せる写真を撮り溜めているヴィーの視線の先には、片思いのアメフト部のエースJ.P.(ブライアン・マーク)の姿があった。ある日シドニーは親友の恋愛のキューピットになろうと勝手にJ.P.にヴィーの想いを伝えるが、タイプじゃないの一言であっけなく片思いの恋は終わる。ヤケになった彼女は「NERVE」の禁断のドアを開いてしまう。

 近年、SNSから流入した映像表現が映画界を席巻している。ソフィア・コッポラの『ブリングリング』ではFacebookやInstagramに投稿されたセレブ達の写真から住居を割り出し、盗みを働く若者たちの顛末が描かれた。グレゴリー・ホブリットの『ブラックサイト』では殺人の実況中継を行なう犯人と、それを食い止めようとするFBIサイバー捜査官の攻防を描いた。ヘンリー=アレックス・ルビンの『ディス/コネクト』ではSNSで嫌がらせを受けた少年が自殺未遂を図る事件から、SNS上の心のつながりをシニカルに見つめた。真利子哲也の『ディストラクション・ベイビーズ』では、主人公の少年の無軌道な暴力行為を、友人の少年が全国に向け生中継した。スパイク・ジョーンズの『her/世界でひとつの彼女』では人工知能型OSに恋をした男の悲哀が綴られた。これらの作品に共通するのは、当たり前になった衆人環視システムと一般人の何気ないネットワーク発信の恐怖である。人が何かをネット上にアップロードした時、不特定多数の人間がそれらの情報を受信し、プライバシーが露わになる。今作においてもヒロインのヴィーは当然のごとくSNSを自由自在に使いこなす。FacebookにFaceTime、InstagramにSnapchatにLINE。Wi-Fi環境が張り巡らされ、国中どこにいてもインフラが整備されている先進国においては、各種SNSがどこにいても追ってくるような感覚に襲われる。その上、ヴィーと母親のナンシーはスマフォで共同口座の入出金記録も管理し、共有している。当然、情報漏洩のリスクも高まる。

 片思いをしていた男に振られ、自暴自棄になって闇サイトにアクセスするヒロインの姿は、90年代に世界を席巻したJホラーと大差ないどころか、現代ホラー映画のテンプレートを見事に踏襲する。現代人が最新テクノロジーに触れた時、そこには過激な肉体への侵犯が同時に起こるというのは、デヴィッド・クローネンバーグの『ヴィデオドローム』や『イグジステンズ』、『コズモポリス』を受容した世代にはごく当たり前の事実として受け止められる。時に最新テクノロジーは麻薬のように個人を汚染する。日々過剰なストレスを受ける現代人にとって、仮想空間こそがバーチャルの楽園であり、匿名で綴られる各種SNSにおいて、人は現在の自分とは違う別人格になりたがる。パスワードのバリエーションが無数にあるように、各種SNSでは複数アカウント及び匿名登録において、人は今いる自分と別個の役割を持ち、別人格が少しずつ一人歩きしてゆく。今作の怖さはヒロインの薄皮一枚だったプライバシーのヴェールが剥がれ、不特定多数に開かれ、拡散される恐怖に尽きる。SNSで人のプライバシーを覗き見る快楽を知った大衆はますます過激を求め、ネット上では人間の生き死にさえフラットに扱われる。ラスト30分の展開を含め、監督はお世辞にも演出が上手いとは言えないが、ニューヨークの街を昼ではなく、ほぼ夜のみ撮影した映像はこの街の猥雑さと空虚さをを同時に現す。MØの『Kamikaze』、Børnsの『Electric Love』、Lowellの『Ride』、Holy Ghostの『Okay』や『Crime Cutz』、Blood Orangeの『Forget It』など実にセンスの良いセレクトで並べられたインディー・チューンたちがスクリーンに鳴り響く。最初からシリーズ化ありきのラストには心底げんなりしたが 笑、100分以内のB級映画としては決して嫌いになれない。
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