2013年キネマ旬報ベストワン作品。
認知症の母の介護という非常に現実的に重みのある題材をここまで軽やかにユーモラスに描いた森崎東監督の85歳の遺作に天晴れ。
老いた母を看るということ。
その母がボケるということ。
母をホームに預けること。
自分が忘れ去られるということ。
誰でもあり得る苦労話が優しい。
その悲哀とユーモアが絶妙。
昨年亡くなった森崎東監督、当時85歳の作品。映画のクオリティは不思議なことに年齢を超える。
62歳で漫画家デビューを果たした岡野雄一の介護日誌コミックを原作に、離婚して子連れで故郷の長崎に戻った主人公ゆういちと、85歳になりグループホームで暮らす認知症の母みつえの心温まる日常を描く。
ゆういち役で岩松了が禿げ頭の漫画家を絶妙に演じていて、母みつえ役の赤木春恵の遺作に当るのかな、演技とは思えない痴呆の末の可笑しみ、儚さが滲み出ていた。
あと、原田知世と原田貴和子が約20年ぶりに姉妹共演の珍しさ。
認知症が進むにつれ、過去の記憶と今の現実が混在していくが、哀しき夢のような回想が後半、叙情を引き立てる。
長崎の原爆の影響で亡くなる幼馴染や、幼い頃に病死する妹のこと。会いたい人と夢現の中で会ってゆく。
そんな母を見つめる中年禿げ息子。
とにかく息子と母の相思相愛ぶりが深い。
親を介護することの悲喜交交が伝わってきて、優しい気持ちになった。
年老いた親を看取ることは、ほとんどの人がやがて経験すること。そんな憂鬱な未来を優しく溶かしてくれる映画だ。