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死霊館のEikeのレビュー・感想・評価

死霊館(2013年製作の映画)
3.5
2000年代の米国製ホラー映画について、メジャーシーンのトレンドセッターとなったのはやはりジェームズ・ワンということになるのだろう。
ワン監督が注目を集めたのはやはりSAW(第一弾)でしょうが、その後のシリーズ展開からはあっさりと身を引いて独自の路線を開拓した辺り、意外に堅実さも伺わせます。

そしてそれが「インシディアス」の成功につながったとも言えましょうか。
「パラノーマル・アクティビィティ」や「ファイナル・デスティネーション」、そしてもちろん「ソウ」などギミックや時に露悪的な描写を売りにしたホラー・シリーズ作品が幅を利かせる中にあって
あえて基本に立ち返って恐怖映画を現代的なアプローチでアップデートするとどうなるのか、それを見せてくれたのが「インシディアス」だったと思います。

それに続いて発表された本作は意外にも冒頭からはっきりと心霊研究家である主人公夫婦のスタンスが打ち出されており、ホラーとしての側面と同じくらいドラマ部分を強調した造りとなっております。
ホラーとしての「お約束」だけでなく登場人物たちの背景や感情を掬い取ったドラマとしての骨格が非常にしっかりとしております。
実話に基づいているとマーケティング上は強調されておりましたが、作品としてその部分を殊更強調するような鼻に付く内容にはなっておらず、シンプルな「恐怖映画」としても十分に楽しめるモノになっております。
全編を通してホラーらしさというか恐怖映画に対して観客が期待する要素が満載で、それでいてレーティングはPG-12と至ってマイルド(つまり過激な描写や暴力シーンはほとんど出てこないということです)。
それでいてちゃんと満足させてくれるわけですから大したものであると思います。

物語の設定が70年代初頭であることもあって「あの頃の恐怖映画」っぽさが横溢しているあたり、懐かしさすら覚えます。
映画の中ではご丁寧にも「悪魔祓い」の展開すら待ち受けていて「オカルト映画」の懐かしい味わいには嬉しくなってまいります。
ただ、本作がホラー映画として何か新しいものを見せてくれるのかと言えばその点は期待しない方が良いと思います。
本作は奇をてらった展開や描写で勝負するような作品では無く、素材をじっくりと正攻法で調理した一品と言うのが相応しい作品でしょう。

ワン監督の出自や時代を反映してのことなのか、本来ならかなり抹香臭くなりかねない物語ですが決して重苦しくはありません。
かと言って吹けば飛ぶような何の印象も残さないような作品では終わっておらず、その点はやはり演技陣の力だと思います。
「インシディアス」に続いての登板となるパトリック・ウィルソンも好演ですが、やはり本作を支えるのは二人のヒロイン、ヴェラ・ファーミガとリリ・テイラー。
共に演技力は折り紙つきのベテラン女優の競演が実現している訳で見応えがあります。
こうした充実した面子を揃えた上で正攻法のホラーが展開されるのですから恐怖映画好きにとっては正に必見作と言えると思います。

マレーシア生まれでオーストラリア育ち、信奉するのはデビッド・リンチとダリオ・アルジェントというワン監督、いわゆる超大作も任される売れっ子ですが自前のプロダクションも設立済みでこれからは製作者としての手腕にも期待がかかりますね。
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