タケオ

40歳からの家族ケーカクのタケオのレビュー・感想・評価

40歳からの家族ケーカク(2012年製作の映画)
3.7
 よくぞここまで'キッツい'コメディ映画を制作したものである。『無ケーカクの命中男/ノックトアップ 』(07年)に登場したピート(ポール•ラッド)とデビー(レスリー•マン)の夫婦生活を描いたスピンオフ作品だが、作中で繰り広げられる「夫婦倦怠期ギャグ」の辛辣さにはひたすら凍りつくばかり。冷え切った夫婦仲、思春期の娘とのギクシャク、親族との確執、仕事のトラブルと書いてるだけでも胃がキリキリしてくるようなシチュエーションの数々を、ジャド•アパトーは軽妙なタッチでしっかりと「コメディ」として描き出していく。
 更年期の妻デビーを演じたレスリー•マンは、監督のジャド•アパトーとは実の夫婦関係。ピートとデビーの娘の2人を演じたのも、ジャド•アパトーとレスリー•マンの実の娘モード&アイリス•アパトーである。そんな配役からも、本作がアパトー一家の私生活が反映された作品なのは間違いないだろう。それが理由なのかどうかは定かではないが、レスリー•マンの演技がとにかく怖い、怖すぎる。辛辣な物言いで周囲をたじろがせる勝気なデビーの威圧感たるや、半端なものではない。産婦人科で年齢詐称がバレてしまい、中途半端に気を遣ってくる医者たちに対してデビーが逆ギレするシーンは爆笑必須。あまりにも険しすぎる顔はインパクト絶大だ。
 また登場時間こそ短いが、デビーを上回るほどのブチギレママのキャサリンを演じたメリッサ•マッカーシーの存在も忘れるわけにはいかない。子供同士のトラブルで校長室に呼ばれ、口裏を合わせてシラをきるピートとデビーに対してキャサリンがありったけの罵詈雑言を並べ立てていく様は、正にコメディエンヌとしてのメリッサ•マッカーシーの真骨頂。あまりの迫力を前に、ポール•ラッドとレスリー•マンが堪えきれずに「ブハッ」と噴き出しまくるNG集もエンディング•ロール中に用意されており、腹筋が崩壊するかと思うほど笑えるため要注意である。
 理想とは程遠い現状を受け入れることができず、全てを他人のせいにしてしまうイタ〜イ大人たちの姿を描いたブラック•コメディ。物語中盤の展開こそまるで地獄巡りのようなものとなっているが、鑑賞後の後味は爽やかなので安心して欲しい。傷つきながらも必死で前に進んでいく一家の姿に、きっと勇気を貰えるはずだ。
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