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蠢動 -しゅんどう-のodyssのレビュー・感想・評価

蠢動 -しゅんどう-(2013年製作の映画)
4.0
【地味だが堅実な時代劇】

『人類資金』を見て、あまりのひどさに愕然として立腹もした日の次の夜、口直しになればいいがと思いながら『蠢動』を見るべく映画館へ。

こちらは上映館も少ないし、テレビに出まくって顔が売れているような俳優もそんなには出てはいませんが、しっかりとした作りで好感が持てました。

特に冬の西日本山岳地帯にロケしたという雪景色と、その中を追い追われながら黙々と進んでいく侍たちの姿に真実味がこもっています。

舞台は享保期(八代将軍吉宗の頃)の因幡藩(今の鳥取県)。因幡藩はかつて或る事件を理由に幕府からの咎めを受けそうになったときに、藩士が個人的に責任をとって切腹し、藩としての懲罰を逃れた過去があった。

そして今、幕府から使わされた剣術指南・松宮(目黒祐樹)は、同時に幕府のスパイでもあり、藩が飢饉に備えて幕府に申告せずに田畑を開発している事実を探り出していた。おりしも江戸からは幕府の使者が因幡藩に向かっている。もし松宮の探り出した情報が使者に伝えられれば、藩は取りつぶしになりかねない。

危機感を持った城代家老は一計を案じる。剣術指南の松宮を暗殺して、その咎を藩士個人に負わせてしまおうというのだ。そして、犠牲になるべく選ばれた藩士は誰だったか・・・・?

幕府の圧政・監視下で苦しむ藩、そして藩の都合により犠牲にされる藩士という構図の中で、一種のさむらい残酷物語が綴られています。淡々として筋の運びで、新規さをてらったところはありませんが、オーソドックスな作りで、上述の雪景色のシーン以外でも、ろうそくの灯りなど、映像面の美しさがそれなりに楽しめるようになっています。

音楽が使われていないのもこの作品の特徴。ただし、その代わりにクライマックスでは和太鼓が用いられていて、時代劇らしい雰囲気を生み出すのに効果を上げています。

女優陣のキャストと演技がやや物足りないのが残念ですが、基本的にこの作品は男の世界を描いているわけで、やむを得ないでしょう。

『人類資金』みたいにカネばっかりかけて内容がスカスカの映画より、こういう作品を映画館は上映するべきだと思いました。
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