垂直落下式サミング

蠢動 -しゅんどう-の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

蠢動 -しゅんどう-(2013年製作の映画)
2.7
封建社会の理不尽さや武士道精神に対する矛盾が中心に描かれており、本格時代劇の名に恥じない、至って真面目につくられた映画という印象は受ける。
しかしながら、一言発するたびにカットを割って、その人物の顔をアップにする演出に違和感を感じた。かつての日本演劇のような様式美に入れ込むのはいいのだけれど、ここに俳優の表情を撮さなければ心情が伝わらないと思っている邦画の悪い癖がそのままあらわれているように思う。悪いけどスターじゃない人の顔なんて見たくない。
確かに、自主映画としてはかなり力の入った撮影であり、打ち鳴らされる太鼓の音にあわせてようやくカメラが動き出す大立回りなど、そのあたりメジャー級のつまらない作品と比べて引けは取らないのだけど、時代劇をよくみるようなマニアからは評価はされても、他の層からは見向きもされないのではないか。武士道残酷物語をみたいのなら、それこそこの映画の元ネタをたどっていったほうが幾分か面白いだろう。
武家に生まれ腰に大小を差しているのに人を斬ったことがなく、心のどこかで自分は手を汚さずに済むだろうとたかをくくっていた世代が殺しを命じられる苦悩など、現代的なテーマは織り込まれているのだが、結局は「古き良き時代劇のテイストを現在に」というコンセプトを逸脱して観客になにかを提示してはくれないので、今一度語りなおすことで現在の観客にこそ響くものがある映画かとなると、また別の話であると思う。