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標的の村のメガネンのレビュー・感想・評価

標的の村(2013年製作の映画)
4.4
三上智恵監督による作品
いわゆる"やんばる"と呼ばれる沖縄県北部の高江を舞台に、そこに住むとある家族とその生活を描いたドキュメンタリー。1時間半という比較的短い上映時間だが、その重層的な考察とは裏腹に透徹した日常性への洞察を含んだ描写と、丁寧な取材に裏打ちされた濃密な構成により、とても長く感じる

標的の村の題名はそのまま舞台となる沖縄県北部にある村落を表すが、冠された意味はより深遠なもの。数十年に渡って沖縄に横たわる米軍基地問題への、三上監督なりの眼差しがそこにはつよく出ている。にもかかわらず、作品そのものは決して説教臭いものではない…むしろ、親しみやすく共感しやすく、だからこそ問題の切実さを身近に感じ取れるという印象すら受ける。

これまでの私の認識では、沖縄の基地問題とはどこか現実感の薄いものだった。テレビの向こう側にあり、どうしても自分たちの生活と接しているという肌感覚が持てず、しかし報道される情報からは、中身を欠いた怒りや悲痛ばかりが伝わってくる。そう言った感覚は心理的に不安を掻き立てられて辛い。
しかし、視聴後、それらの焦燥と不安がさらりと取り除かれ、代わりに空疎だった怒りや悲しみにはっきりとした重みを感じられるようになった…と言って言い過ぎではない。
映画で描かれているのは、ある地域のある家族の生活とそれを取り巻く沖縄の現状。それにつきる。それは、私たちが送っている生活とそう変わらない。もちろん営む仕事や、風土や気候は違うのだが、少なくとも同じ言葉を喋り、同じように食べ、寝起きし、働いてる、日本人として当たり前の生活がそこにもあった。しかし、そのすぐ隣には、基地があり、軍用機が遊弋し、実弾演習の兵士が民家の庭先に転がり出ることすらあるという、事実も映画において語られる。その衝撃。

かなり赤裸々に密着的に取材して描かれているだけに、そこに住まう人の苦労や気持ちが、いやが応にも慮られる。
自分の子どもと変わらない子どもたちが、そこには生活していて、変わらずイタズラをし、怒られて、笑ったり、遊んだりしている姿を映画の中に観るにつけ、もしもこの現状が自分の家庭の近くに同様にあったなら、やはり同じように苦しみ、悲嘆し、怒れるんじゃないかと感じた。それは、生半な映画体験では得難い感触である。

アスペクト比は4:3と少し映像に古さを感じさせられるものの、構成はとても観やすい。現状を過去の事実やその推移と絡めつつ、つまびらかにしようとする一方、今そこにある生活を描き、あらゆる出来事が僕たちの日常と地続きであるという、現実感の惹起が要所要所で訪れる独特の視聴感覚。

決して気楽に観れる内容ではなく、実際多少疲れたのは事実だが、それ以上に心揺さぶられるものがあった。傑作。