むさじー

ある愛へと続く旅のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

ある愛へと続く旅(2012年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<愛を辿り、より深い愛を知る>

ローマで平穏に暮らすジェンマは16歳になる息子ピエトロを連れて、かつて青春時代を過ごしたサラエボにやってくる。この街でカメラマンのディエゴと出会って結婚し、不妊に悩んだ末にミュージシャンのアスカに代理出産を頼んだ。しかし当時のこの地は、民族間の対立によるボスニア紛争の混乱の最中にあって、ジェンマはアスカが生んだディエゴの子ピエトロを連れてローマに逃げた‥‥。
思い出の地を旅する現在のジェンマと、サラエボでの愛の物語が交互に描かれ、ジェンマと共に旅するうちにディエゴ、アスカとの三人の複雑な関係が垣間見えてくる。
しかし本作の美点は、謎は謎のままで語りすぎないこと。ディエゴは何故妻子を逃がしてサラエボに残り死んだのか。それはディエゴのアスカへの心変わりか、それとも贖罪だったのか。ディエゴは真実を語らないまま世を去ったが、アスカの口からピエトロ出生の秘密が明かされる。ピエトロはディエゴの子ではなく、戦争がもたらした悲惨な体験によるものだった。
そのことを聞かされてもジェンマの“息子”に対する愛は揺るぐことなく、これからも母であり続け、血の繋がりを超えた家族として生きる決意を新たにする。原題『Twice Born』の意味するところか。戦争の愚かさ、悲惨さを描きながら、それを超えて人間が生きてあることの喜びや悲しみが切なく伝わってくる。そこには愛と赦しがあって、祈りに似た希望が見える。
やや盛り込み過ぎで足早な展開という印象だが、邦題からイメージされる恋愛映画の域を超えた重く深いものがあった。
むさじー

むさじー