こたつむり

ANON アノンのこたつむりのレビュー・感想・評価

ANON アノン(2018年製作の映画)
2.8
♪ 遠ざかる雨雲を
  濡れたまま見詰めていたのさ
  追い掛けて抱きしめたら
  悲しみを今は繰り返す

朝陽よりも夕陽が好きです。
たぶん、僕の原風景に“山の向こうに落ちていくオレンジ色”があるのでしょう。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもの。

そして、この作品も同じ匂いがするんです。
世界が終わる悲しみ。だけど、向こう側には新しい世界が待っている。そんな絶望と希望が混ざり合ったマーブル模様。それがアンドリュー・ニコル監督の筆致。

また、舞台設定も良いんですね。
誰もが行動を記録され監視されている社会…というのは、我々が住む世界の行き着く先。「安全」を追求しすぎたために息苦しくなるなんて、まさに自縄自縛です。

なので、本作は近未来SFとして傑作!
…と言いたいところなんですが。

うーん。
人間のずる賢さというか意地悪さというか。
そういう負の一面を反映させていないので、物語の底が浅いんですよね…。これはとても残念。理想主義者の負の部分が出てしまったのでしょうか。

監視されたら逃げたくなる。
そういう感情は当たり前だと思うんですよ。でも、本作の登場人物は“その状況を当たり前のもの”として受け入れているんです。星新一先生のショートショートならいざ知らず、二時間弱の物語でその前提はさすがに厳しいと思います。

また、素材の良さも活かしきれず。
折角「現実がどこにあるのか…?」なんて尻尾を振りたくなる題材を扱っているのですから、もっと複雑に仕上げる余地があったんですけどね。モッタイナイ。

まあ、そんなわけで。
雰囲気は一流、味は二流…と言いたくなるほどに惜しい物語。でも、監督さんの筆致が好きならば観て損はない作品です。それにアマンダ・サイフリッドをヒロイン枠に据えるセンスの良さは相変わらず。彼女を堪能するだけでもアリです。むふふ。
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