QTaka

ANON アノンのQTakaのレビュー・感想・評価

ANON アノン(2018年製作の映画)
4.0
「目を盗む」
AR(拡張現実)と電脳化された人類。
近未来SFとして、ふさわしい表現が丁寧に表されている。
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電脳化され、全ての人間の行動が、その目で見たものの情報、行動、関係に至るまで、その個人の全ての情報が掌握された近未来社会が舞台。
ここまでのことを、冒頭のわずかなシーンで表している。
これらの技術が、今現在のテクノロジーから、そう遠く無いこともあるが、この冒頭の数カットは、実に丁寧に舞台設定を説いてくれている。
視覚にオーバーラップして表示される情報や、ネットワークをスキャンしている状況が視覚に見える様子。
情報の表示・提供される様子がある。
そして、ネットワークで共有される情報が人類全てにわたっていることを説明している。
顔をスキャンして、個人を特定し、さらにその個人のデータを自由に見ることができる。
その恐ろしさは、そろそろ私達の身近な危機になろうとしている。
だから、この映画が怖くなる。
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「目を盗む」
このフレーズにピンと来る人は多いだろう。
特に日本のアニメを見ている人ならば、すぐに思い浮かぶはずだ。
電脳化社会を描いた名作といえば、士郎正宗原作の「攻殻機動隊」だろう。
その「笑い男事件」である。
このストーリーでは、ネットワークのハッキングなども出てくるが、重要なシーンで取られるトリックが、現場に居合わせた人々の「目を盗む」行為たっだ。それは、事件を大勢が目撃していながら、誰一人として事実を見ることができていなかったと言うことだった。
犯人の顔の代わりにみんなが見たのは、「笑い男」のマークだった。
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この映画では、ネットワークを通じて、様々な人間をリアルタイムで監視する。
或は、過去にわたって、その行動を探ったり、人のつながりを確かめたりする。
それらの情報源として、本人の視覚情報にアクセスする。
何を見たのか、何をしたのか、そこがどこなのか、誰がいたのか。
その人を監視するなら、その人の視覚情報をリアルタイムで見ることによって、何を見て、何をして、どこにいるのか分かる。
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ところが、殺人事件の現場で起こったのは、もう少し違う現象だった。
目の前にいる人間の視覚情報と、こちらの視覚情報を入れ替えるのだ。
つまり、本人に、本人の姿を見せると言うことなのだが。
それは、自分の目で外を見ることができなくなったことを意味する。
見えていながら、目を失っている。
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劇中には、また別の目の乗っ取りが有った。
それは、現実とは全く異なる現象を目に見せるということで、それは誤った現実を与えることだ。
ありもしないネズミの集団や、炎に巻かれそうになる。
そして、車の運転中に、実際の交通状況とは全く異なる状況を見せて、事故になる。
これは、むしろ普通の電脳の乗っ取りだろう。
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やはり、衝撃だったのは、目の前の人に乗っ取られた時の視覚だ。
そこには、決して見えるはずのない自分が立っている。
そして、額に銃口を当てられて、撃ち殺される。
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End of File.
人の死が、データの終わりって言うのもなかなかシュールだ。
電脳化社会において、人生とは「データ」なのか。
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電脳化社会において、その存在、つまりデータを消去して生きようとする存在がいる。
それが、この映画の鍵となる女性だ。
個々人が、その全てをデータとして管理された社会に、一人、反旗を翻すその存在は、潔くて、かっこ良かった。
この電脳化社会が、テクノロジーとして、現在の延長にあることは想像に難く無い。
であればこそ、このSFをもう少し真正面から見てみる必要がありそうだ。
或は、この映画のヒロインこそ、今私達が目指すべき姿なのでは無いかと。
データで語られる自分を拒否する時では無いだろうか。
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