くりふ

ルノワール 陽だまりの裸婦のくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【美しくは朽ちない楽園で】

ひょっとしたら失楽園?というお話。

父ルノワールは見つけた美を永遠に留めたい人で、本作の舞台、晩年を過ごす美の磁場のような元農園レ・コレットもそのために買い取ったのではと。彼の願いと仕事を通じ、そこは一見、理想郷が築かれるようにも映ります。暫しうっとり浸ってしまいますが…それでは終わりません、という映画でした。

本作まずの主役は撮影のリー・ビンビンでしょう。父ルノ絵画の柔らかさと違い、鋭利な光と色ですが、その発色=生命力がすごい。特に橙と緑が隣り合い補いあう鮮やかさが見事で、これがあの絵の素材となるのか…と納得できる生々しさでした。

と、橙と緑の間に横たわり、きらめく若きモデル・デデの瑞々しい肌理と…お尻がもぉ見事! この尻なら父ルノ晩年作「浴女たち」に化けるな、と納得できます(笑)。

演じるクリスタ・テレさんは、成熟に半歩足りぬ少女を残したような肢体で、その危うさが言動にも反映していて、こちらも表現のための素材としてとてもいいですね。

そして個人的に新鮮だったのが、風の音(笑)。

私は父ルノの絵に音を感じることはなかったので…光と色で美を留める/時間を止めようとする絵だから…その、そよぐ草木の音色で、耳が覚めました。この意外性に、実は一番心が洗われたかもしれない。

と、そんな美が詰まった楽園に浸っていると時間を忘れてしまいます。ずっとこれが続いて欲しい…と思ってしまう。父ルノの絵の中に入れるとしたら、こんな感覚なんじゃないだろうか。

しかし現実は絵画と違い、楽園に無常が入り込んでくるわけですね。内からは父ルノのリウマチに始まり、外からは戦争の影がじわじわと侵食する。それをより体現するのが戦地帰りの子ルノだったりもします。デデが楽園での居場所を得られず内乱(笑)を起こしたりも。

象徴的に感じたのが、レ・コレットの女たちに、屋敷からアトリエまで、大名駕籠のような姿で運ばれる父ルノの図。この緑の中で、そよ風と笑い声に包まれ進む一行が、引きの画だととても美しいんですね。

が寄って見れば、リウマチに蝕まれ身動きできないゆえの駕籠運び、という絶望が潜んでいる。

この美醜と明暗の落差が詰まる、迷いの楽園を創り出したことが、本作いちばんの価値だと思いました。

が、本作が弱いのは、どうやっても朽ちるが定めのそんな楽園を、説得力をもって壊せないところだと思いました。これは、作り手自身が楽園の魅力に溺れてしまい、そこに未練を残してしまった結果ではないかと。何となくうまくいかないよねえ…という雰囲気に流されて終わってしまうんですね。

例えば、父ルノに楽園から追放される子ルノとデデという、失楽園の構図を使って物語の柱を固めてもよかったんじゃないか。この実際にあった人間関係には、そんな要素が潜んでいると思うのです。ドキュメンタリーではないのだから可能だった気がします。

図と地でいうと、地の方により力を注いでしまった印象ですね。

例えば、生きながら身体が死んでゆく父ルノは、性より生を渇仰した筈で、だからこそ豊饒な女体画に拘った…という執念などがもっと、因果関係として浮かびあがって欲しかったです。

もったいないなーという総体感でしたが、始終眼福なことは確かです。明らかに子ルノ監督作品『草の上の昼食』のパロディと思われる、河原での突風事件など楽しかった!

…元ネタと違い、ノーパンチラなのが残念でしたが。

<2014.5.16記>
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