くりふ

殺人!のくりふのレビュー・感想・評価

殺人!(1930年製作の映画)
3.0
【このラストも殺人!だとしたら?】

ヒッチコック監督、イギリス時代のトーキー三作目。

レコードから流れる“トリスタンとイゾルデ” をBGMのように被せ、主人公のモノローグを盛り上げる…という音の使い方は当時、画期的だったようですね。今ではありふれた手法ですが、これがお手本になって皆が使うようになったのかな?

巡業劇団の役者が殺され、所属女優ダイアナに容疑がかかるが…どうもおかしい、と“俳優探偵” サー・ジョンが謎を解明しようとするお話。カメラワークの遊びや極端な演出など、随所に見られるヒッチ・タッチは楽しめます。

ダイアナを演じるノラ・ベアリングは黒髪で、憂いを帯びたファム・ファタール風ビジュアルが逆に、ヒッチ・ヒロインらしくなく新鮮でした。

サー・ジョンを演じるハーバート・マーシャルの落ち着いた演技もコクがある。彼は今でいうと、ダンディーなトムヒ様という印象です。

が、ヒッチ自身が「映画術」で“犯人探しの謎解きは好きではない”と語る通り、“俳優探偵”が捜査を始めるとみるみる、つまらなくなりますねえ…。

只その段取りを眺めるだけになり、感情に訴えて来るものが消えてしまう。原作の影響も大きいようですが、もっと気を入れて演出できなかったものか。

それでも面白かったのは、この話の異様な展開。“俳優探偵”は司法の人間でもなく、単なる素人探偵なのに、彼が犯人を追いつめてしまう。法で裁くのではなく、心理的な崖っぷちまで追い込もうとするんですよね。…何て恐ろしい男なのか(笑)。

で、その結果をこう描く本作は、サスペンスというよりホラーだと思いました。

上記の展開に付随しますが、あるマイノリティに対する作品の態度に時代を感じます。映画史的にも、当時は忌み嫌われるばかりでしたね。

<2017.5.10記>
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