ひこくろ

事件のひこくろのレビュー・感想・評価

事件(1978年製作の映画)
4.4
いやあ、日本にこんなに面白い法廷ミステリー映画があったなんて知らなかった。

被害者は若い女性、ハツ子。犯人はハツ子の妹のヨシ子と同棲している宏。
動機もあり、自供もしていて、すべてが明らかに見える殺人事件。
その裁判でどうドラマを作っていくのか、と思っていたら、これがどんどん深みを増していく。
証人たちの証言により、次々と明らかになっていく事実。
そして、炙り出されるかのように浮かび上がってくる事件の真相。

ある証人は、単純に聞かれていなかったから答えなかった。
別の証人は、自らの恥を隠したくて本当のことを語らなかった。
勘違いをしている証人もいるし、思い込みで語ってしまった証人もいる。
もともと関係者とされていなかった、新しい証人もいる。
被告人の宏は、自分の証言が誰かを傷つけることを知っていて語れない。
宏の恋人のヨシ子は、どうしても認めたくない事実に目を塞ぎ続けている。

事実はすべて後から語られるのだが、どれもにちゃんと理由があるので気にならない。
逆に、その事実が裁判で掘り下げられていき暴露されていく展開に目が離せなくなる。

被告人を守るのか攻めるのか、という単純な構図になっていない検事と弁護人の関係性がいい。
二人はともに、事件の裏にあるものを追求していく。
蘆田伸介演じる岡部検事はとことん冷静に、丹波哲郎演じる菊池弁護士は畳みかけるように。
証人に対して、どこまでも冷酷に、二人は事実を明かせと容赦なく迫っていく。
それを佐分利信演じる谷本裁判長が、また見事に裁判を進行させていく。

事実を突きつけられた関係者たちは、裁判の後も生きていなかければならない。
そのことを、宏やヨシ子らのその後を描くことで、リアルに見せているのもすごい。
このシーンがあることで、人間の弱さや残酷さ、したたかさまでもがくっきりと見えていた。

普通の法廷ミステリーとは少し毛色の違った、とても面白い映画だった。
ひこくろ

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