Epi

愛の神、エロスのEpiのレビュー・感想・評価

愛の神、エロス(2004年製作の映画)
4.6
3連作だけど、これはもう、ダントツでウォン・カーウァイの『若き仕立屋の恋』でしょう。
仕立て屋の、純愛で、切なくて、もどかしくて、ものすごくいやらしい(笑、憧れのかたち。

最近観た『繕い裁つ人』にしろ、パリ在住の鈴木健次郎さんにしろ、彼らから連想するのは、職人としての矜持と、美意識。
仕立て屋って、実にアルチザンであり、アーティスト。
指先を使い、ハサミで裁ち、繕う。その全てが、いったん愛やエロスに向かえば、それはそれは、ものすごくドスケベな行為になる、と思うわけです。

この仕立て屋はまさにその権化のような男。
仕立てる姿は、踊るようで、そして様式に溢れるようで。
その全てが、憧れの君に向かうわけだから、なまじっかの女なら、グズグズになってしまいそうなのに…さすが、コン・リー姐さんであります。彼を振り回して、ケロッとしている。
あの腕回りや、腰回り、ウェストの艶然たること…。
仮縫いの手の指のなんと意味深なこと。

それでも、姐さん、まったくヤらせず、艶然と微笑むわけです。

そして落ちぶれていく姿もまた、腐る寸前の肉の香ばしさと言おうか、滅びの美学と言おうか。

服と仕立て屋の腕と指と目線と、コン・リーの肉体。
ウォン・カーウァイの美意識が徹底的に仕込まれた作品。それだけで、傑作じゃないだろうか。

ウォン・カーウァイは、こういうのとか『花様年華』を撮っていればずっと巨匠でいられるのに…。そうならないところがまた彼らしい、けど。
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