Mikiyoshi1986

海の沈黙のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

海の沈黙(1947年製作の映画)
5.0
今日はフランス映画界の巨匠ジャンピエール・メルヴィル監督の43回目の命日。

70年も前に制作された彼の長編デビュー作でありながら、現在もなお我々の心を揺さぶり続ける「海の沈黙」は、今一度"人の深淵"を覗かせてくれる逸品です。

国家間レベルの主従関係と対比させた個人レベルの内情を際立たせ、その矛盾とジレンマから成る情景を見事炙り出した本作。

ナチスドイツ軍に占領されたフランスの地方で、老人と姪の住む家にかつてドイツ将校エーブルナックが居候していた半年間が老人の回想によって語られます。

熱烈な親仏精神から日々友好的に二人へ語りかける心優しき将校と、ドイツへの敵愾心から沈黙という抵抗で会話を拒み続ける二人。
一方的なディスコミュニケーションの中でもこの異様な共同生活は成立し、次第に立場を越えた"人としての真意"が個々の心を捕らえていきます。

両国及び彼らの共生を「美女と野獣」に置き換えて語る将校がとても印象的。
そしてその空間で唯一沈黙の均衡を破るのは、常時規則正しく打ち続ける時計の秒針音のみ。

抗えぬ将校としての義務を背負い、戦争に対峙していく姿は本当に切ない。
「Adieu」の言葉に身震いし、アナトール・フランス著の一節に打ちのめされるであろう、静閑なる傑作です。
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