ふたーば

ラストエンペラーのふたーばのネタバレレビュー・内容・結末

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

想像していたよりもはるかに好きな映画だった。

ざっくり言えば、とんでもない額のお金を投じてめちゃくちゃ綺麗な画面をつくり、戦争や国家の存亡といった壮大な歴史のうねりをダイナミックに描きながら、その登場人物の一人のごくごく個人的な心情スポットに当てるという、いわばギャップで唸らせてくるタイプの映画である。

あまりにも美しい映像は、ときどき「どこまで史実通りなのか?」という疑問がチラつきはするものの、一度でも心を奪われたら最後「これこそが自分の見たかった画面なのだ」と思わず納得してしまう。まさに美の暴力である。

正直に言うとこの映画の王宮文化の描写はあんまり正確だとは思えないし、あまりにも溥儀の肩を持ちすぎているし、この男の孤独を説明する小道具として「母≒乳母≒妻」をダブらせるという描写も、若干キモいといえばキモい。

でも「多分本当にこういうタイプの孤独を抱えていたんだろうな」とか「ここまで頑張ってきて、実はずっと騙されているだけだって気づいたときは惨めだっただろうな」ということが説得力を持って描写される。全部嘘かもしれないけど、この映画の解釈した「溥儀」という存在が生き生きと動く、カギカッコ付きの「リアリティ」をしっかり作っている。これがおそらくこの映画の本質なのだろうと思う。

自分は「満たされているようで、そうではない」とか「一番欲しいものだけは絶対に手に入れられない」というような描写に大変弱く、また坂本龍一の音楽の素晴らしさも相まって溥儀に感情移入してしまった。

あとラストがめちゃくちゃ素晴らしい。皇帝の持っていた絶大なパワーを一瞬だけまるで本物の魔法であるかのように見せ、かと思うと唐突にスッと退場してすべて幻であったかのような体でサラリと締める構成。こんなの、映画で見たいもののすべてですよ。
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