マルケス

ラストエンペラーのマルケスのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
4.5
映画の影響でどうしても紫禁城が見たくなり、北京へ行った。太和殿から一望する広場に500人もの家臣がかしずく様がフラッシュバックし、総毛立つ思いがしたことを覚えている。

溥儀が過ごした部屋、歩いた通路。映画の影響もあってか現実とは乖離した異空間に感じられた。角を曲がれば少年の溥儀が佇んでいるのでは、そんな錯覚さえしそうになる。
3月の北京は春にはまだ遠く底冷えのする寒さで、溥儀の孤独ばかりが迫ってきた。実際には楽しいことも多かったはずなのに。

それにしても、なんと波乱に満ちた生涯だろう。3歳で清朝皇帝に即位し、辛亥革命で皇帝の座を追われた後は周囲の国々の思惑に翻弄され続けた。皇帝でありながら何一つ決定権がない。皮肉で、不自由な人生。
老いた溥儀が玉座に隠した壺を手に微笑むエンディングは、今でも鮮明に焼き付いている。壺から這い出るコオロギ。“一炊の夢”の故事を重ね合わせてしまった。

才能に溢れ、努力も惜しまない映画人達が結集して創り上げた傑作。ベルトルッチ監督の映像美に酔いしれる163分は、映画の醍醐味を味わえる至極の時間。
アジア人の美しさを気づかせてくれたジョン・ローン。坂本龍一氏の音楽も、このテーマ曲なしには完成しないと思えるほどの力を持っている。

帰途、北京空港の本屋で人民元使い切りを兼ねて原作の『わが半生』を買った。英語版なので早々と断念し、日本語訳を買い直すハメに。
ちょうど下巻を読み終えた頃、テレビが天安門事件を報じた。かの国の未だ流動する歴史に目眩がする思いだった。
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