【このペンを売ってみろ】
「彼は口がうまいから砂漠で砂を売れるわ」
「これ美味だよってね」
パムグリア
"ギャング映画の帝王"マーティンスコセッシ監督によるノンフィクションドラッグムービー。
90年代に証券会社《ストラットン・オークモント》を立ち上げて悪徳商法で稼ぎまくり、文字通りに破滅していった証券ブローカー、ジョーダンベルフォートの半生を描いた物語。
『グッドフェローズ』や『カジノ』におけるバイオレンス部分をドラッグやS○Xに置き換えた話で(ホントにキメてないよな?)と心配になるくらいにディカプリオが大暴れする作品だ。
まあ、それだけならいつものスコセッシ作品となんら変わりはしないんだけど、ところがだ。
劇中でのモラルを完全無視したドラッグ描写や、セールスのやり方を仲間に教えて金持ちにクズ株を売りつけるディカプリオの姿からは、ジョーダンではない別の男の影が浮かび上がってくる。
(こいつのモデル、ロジャーコーマンなんじゃね?)
知らない人のために説明しておくと、そのロジャーコーマンって人は、1950年代から今にかけてまで超低予算なB級映画を500本以上製作した"B級映画の帝王"と呼ばれているプロデューサーで、若りし頃のスコセッシに映画撮影のイロハを叩き込ませて彼の最初期の監督作品となる『明日に処刑を』を撮らせた人なんですね。
更にコーマンは、映画の歴史上で最初にドラッグをテーマにした『白昼の幻想』も67年に撮っていて、(ちなみに『白昼の幻想』にはあのデニスホッパーやピーターフォンダ、ジャックニコルソンといったガチのヤク中が関わっている)
スコセッシはこの映画が公開される直前に撮られたドキュメンタリー作品『コーマン帝国』のワンシーンで、
その映画のことを
「正に先進だ」
「白昼の幻想では映像のパワーを感じた」
「実に美しい映画のモンタージュだ」
と真面目に解説しちゃってるんですよ。
あのアホな証券ブローカー共が繰り広げた破天荒の数々の源は『白昼の幻想』などのコーマン作品によるものが大きいのではないだろうか。
というよりも《ストラットン・オークモント》は、コーマンが70年代にドライブインシアターで一大帝国を築き上げ、多くの名監督を世に送り出した《ニューワールド・ピクチャーズ》に瓜二つだ。
ただ、ジョーダンとコーマンとの間には決定的な違いがある。
ジョーダンは劇中で何度も"莫大な金を稼いだ"ことを誇りにしていたが、
コーマンは今まで"1セントも損をしなかった"ことを誇りにしていることだ。
現在、コーマン自身が経営している《コンコード・ニューホライズン・ピクチャーズ》は、株式を公開することも事業を拡大することもなく、ディカプリオが最初に根城にしてたガレージのような小さいスタジオで、どうしようもないクズ株レベルのB級映画を今でも製作し続けている。
「早く安く作られてる」
「センスは二の次だ」
「悪趣味でいい」
マーティンスコセッシ
「マーティン、まずやらなくてはいけないのは、映画の冒頭をとてもうまく撮ることだ。観客は何がはじまるのかを知りたがっているのだからね」
「それから映画の最後にも力を入れなくてはいけない。観客はどんなふうに全てが収まったのかを知りたがっている」
「本当は他のことはどうでもいいんだよ」
ロジャーコーマン