ふき

ウルフ・オブ・ウォールストリートのふきのレビュー・感想・評価

4.5
クズ株を違法に売りさばくことで大金を儲け、ドラッグと酒とセックスに溺れた挙句逮捕された実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォート氏の自伝『ウォール街狂乱日記』の映画化作品。

実在の人物に対してこう表現するのもアレだが、「クソ野郎の成功と転落」のお話として非常に面白い。笑うしかない実在の出来事を描いた“広義の”コメディであるが、とにかく不謹慎で不真面目な描写のオンパレードで、文字通り笑える。
スコセッシ監督のギャング映画における「血と暴力」の役割を果たすがごとくぶち込まれる「乱痴気騒ぎ」が、まあ何しろ酷い。公私内外問わず繰り広げられる乱交は最高のシークエンスだし、シリアスな一カットの中にはさみ込まれる挿入から射精の件は下らなすぎるし、少ないが男同士の絡みも見られる。レオナルド・ディカプリオ氏とジョナ・ヒル氏を始めとするキャストのドラッグ演技は素晴らしく、尺の何割でラリってるんだと思うほど暇さえあればドラッグを鼻から吸い、紙幣をゴミのように投げ捨て、人権を無視したやりとりでゲラゲラ笑う。それを体験できる。まさに最高の“映画”だ。

しかし本作がなにより“映画”なのは、このレオナルド・ディカプリオ氏演じるジョーダン・ベルフォート氏を、魅力的に感じてしまうところだ。
彼は犯罪者だ。しかも無知な人々から巻き上げた多額の財産は、外見的虚飾と短絡的な内面的快楽に費やされるだけで、犯罪行為の先に目指すものもない。彼は「一見魅力的な大物犯罪者」ですらないのだ。
だが私は、彼が犯罪を成功させて儲けると、一発演説を打って従業員を鼓舞させると、うまいこと言ってFBIを追い返すと、そのたびにスカッとした。先輩から教わった「マネー・チャント」を従業員と共に合唱するシークエンスなど、涙が出てくるほどブチ上がった。
こんなクソ野郎に感情移入しちまうなんて、こいつァ“映画”だぜ!

だが現実をベースにした作品として、製作者は本作を「面白いピカレスクロマン」で終えはしない。三時間の尺にドラッグと酒とセックスの乱痴気騒ぎを詰め込んで、「本来楽しいはずの行為が飽和して逆に退屈」という状態に観客を追い込む。その上で最後に、罰を受けて釈放されたニッコニコのジョーダン氏を見せるのだ。ジョーダン氏が不正に金銭を儲けた犯罪者であると知っているにも関わらず、彼の金の稼ぎ方を聞くために客席に座る人々を見せるのだ。
「これがお前らの状態だぞ」と。

ところでマシュー・マコノヒーさんがやる「マネー・チャント」、真似しようとすると『アダムス・ファミリー』のテーマになる呪いにかかったんだけど、誰か助けて。
ふき

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