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恋するリベラーチェのchi6cuのレビュー・感想・評価

恋するリベラーチェ(2013年製作の映画)
4.0
たとえイミテーションだとしても、カラーで動くリベラーチェの演奏を見ることができたという事だけで有意義だと思う。
とにかく主演2人の熱演!マンネリしがちな伝記映画というジャンルだけど、恋愛に焦点を絞った構成が見事で全く飽きずに一気に観れた。

恵まれない環境に生まれ、苦労の末にようやく小さな幸せを手にしていた青年スコットがひょんなことから大スターリベラーチェの目に留まり、恋人となり、壮絶な恋の顛末を迎える。
作品はリベラーチェではなくスコットの目線で描かれており、偉大な芸術家との恋の苦しさが本当にヒリヒリと痛い。
純粋なスコットはリベラーチェとの恋を運命だと感じるけれど、後にそれはリベラーチェの周囲の人間が仕組んだことで、自分はリベラーチェのモチベーションを保つための餌だったことに気づく。
その瞬間の絶望が本当にかわいそうだった。

多かれ少なかれ、恋において両者の重さの違いは生じてしまう。
リベラーチェから捧げられ、自分は愛を受ける側だと思っていたのに、いつの間にかスコットにとってリベラーチェは世界のすべてになっていて、自分はリベラーチェの為にアイデンティティのすべてを投げ出してしまっていた。
その絶望感からの逃避行動。
最終的には泥沼の破局劇。
恋のはじめと終わり。

二人の関係は常にリベラーチェからの要求で動いていた。
つまりはスコットにとってリベラーチェはパトロンだったのに、二人はそれが愛だと必死で思い込み、一緒にいる方法を必死で考え、心が離れてしまう。
弱肉強食ではあるけれど、力関係の明確な恋愛関係はやっぱり苦しいな、と心から思った。

善良なるスコットは平穏な生活からいきなり激しい恋の渦に巻き込まれ、何もかもなくしてしまう。
ただ、リベラーチェの何人もいた恋人の一人になっただけ。
ああ、かわいそう、かわいそうと思っていたが、ラストシーンで一気に救われる。
彼はリベラーチェの紛れもない理解者だったと最後に気づく。
芸術は素晴らしい。
芸術家の残したものを理解するだけで観る者は恋に落ちることができる。
心の底から憎んだ相手でもああ、素晴らしかったと感嘆できる。
劇中リベラーチェがスコットを愛した理由を延々彼に伝えるが、この言葉がそのまま、この作品への説得力となった。
紛れもなく恋愛の物語。
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