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泣き濡れた春の女よのzhenli13のレビュー・感想・評価

泣き濡れた春の女よ(1933年製作の映画)
4.3
久しぶりの清水宏。本作が清水初のトーキー作品とのこと。サイレント作品の『港の日本娘』の方が本作の後に公開されている。『日本娘』の方が色々ぶっとんでいるが、北海道ロケの本作は脚本の詰めの甘さ云々よりもいつもの如くショットがただならぬ作品。冒頭の青函連絡船のシーンからすでにすごいし、雪国を撮る清水作品は初めてで、そこも楽しめた。

他の清水作品に共有されるモチーフが本作でもいくつか見られる。『按摩と女』の高峰三枝子や『有りがたうさん』の桑野通子のような、流れ者でいわくつきの女を岡田嘉子が演じていて大変色気のある佇まい。
また『団栗と椎の実』『子供の四季』『信子』でもみられた、名前を何度も呼びながら居なくなった者を探すモチーフ。ここでは岡田嘉子がみっちゃーーん、みっちゃーーんと我が子を探す声とともに、走る雪下駄の足元だけを追う。
クロスディゾルブで幽霊のように移動したり消えたりするジャンプカットは、本作では控えめに登場する。『按摩と女』では高峰三枝子が「鯨屋」の蛇の目を翻しながら浅い河原の足場を歩いてゆくジャンプカットとなる。

北海道の雪深い炭鉱に出稼ぎに来た男たちと、同じく流れ着いて酒場を切り盛りする女たちの物語なのだけど、炭鉱のシーンがほとんど出てこない。大山健二の上官が朝の点呼をするシーンや仕事終わりのようすくらい。
クライマックスで、とってつけたような落盤事故が発生する。大日向傳が仲間を探しに坑道を掻き進む横移動と、事故のあとにたくさんの坑夫たちが項垂れて雪道を帰るシーンがすごい。構図は完全に青木繁の『海の幸』で、夜の雪道に反射する光に項垂れたシルエットがゆらゆらと浮かび上がる。

岡田嘉子の経営する酒場は山小屋のような造りで2階を住居にしている。酒場のある階段下と住居部分の階段上の、見えるやりとり、もしくは見えないやりとりが数々のバリエーションをもって展開される。
岡田嘉子の部屋の扉、斜め45°の木の板が並ぶ扉の正面ショットが何度も登場する。薄っぺらの扉は 『港の日本娘』でも印象的だった。きっとガチャともバタンとも音がしないであろうと想像された薄っぺらい扉が、ここにもある。その音はやっぱり薄っぺらで男を招き入れるしかない扉だが、わが子の侵入は拒み人形の手もひきちぎる。

または、屋根裏部屋のような奥まった子ども部屋でランプの灯りを点けず、雪の反射光を含んだ夜の光にかたどられるシルエットだけの大日向傳と千早晶子。ここで異様なまでに惹きつけられるショットが連続する。このシーンだけで短編がひとつできそうなほどの。
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