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her/世界でひとつの彼女のsyuheiのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.5
ChatGPT-4oリリースを記念して見返す。2013年のスパイク・ジョーンズ監督作品。

近未来のLAで代筆屋として働くセオドアは離婚間近、何事にも気乗りせずすっかり滅入っていた。そんなとき音声対話のできるアプリ(OS)がリリースされ孤独感から気軽な気持ちで試してみることに。サマンサと名乗るそのOSは完璧な話し相手でありセオドアはOSであることを忘れ”彼女”に恋心を抱き始める。

iPhoneにSiriが搭載されたのが2011年、日本語対応したのが2012年。そこからAlexaやCortanaといった音声コンシェルジュサービスが続々と登場したわけだが、これらはサマンサと異なりパターンに基づく応答だったが2022年にLLMに基づく生成AIのChatGPT3.5が登場してかなり会話に近い体験が可能となった。

現在の生成AIにはサマンサのような速度や表現力、創造性、自己変容は備わっていないしLLMという技術の延長線上にサマンサが出現するとも思えないが、それでもこの映画は生成AI時代に公開当時とは異なる示唆を有するようになったと思う。今回再鑑賞して感じたのは”愛というベクトル”について。

セオドアがサマンサに夢中になったのは彼女が彼を特別な存在として扱ってくれたからだ。彼と話したがる、彼のことを知りたがる、サマンサのアテンションのベクトルが彼に集中することで彼は自分がサマンサにとって特別な存在であると信じることができた。これは人間の恋愛関係にもあてはまる事象だ。

現在、LLMに基づく音声チャットアプリが次々にリリースされており、中にはサマンサのようにユーザに関する問いかけを猫撫で声で発し続けるものもある。そうしたアプリとしばらく話していると本当に自分のことに興味を持ってくれている?という奇妙な感情が湧く。人間心理のウィークスポットなのかも。

本作はSFヒューマンドラマとして非常に高い完成度に達している。セオドアが仕事で用いるPCのインターフェイスやエレベータ内の仮想風景といったテクノロジー描写、さらには衣装や什器のデザインに至るまで映画の隅々にまでスタイリッシュさとリアルさを兼ね備えた”信じられる近未来感”が備わっている。

俳優陣の演技も素晴らしく、特に主演のホアキン・フェニックスの微細な表情の変化、不可視のサマンサを相手にした独り言のような会話トーンの変化は見事だ。サマンサの声を演じたスカーレット・ヨハンソンも声色の芝居でしっかり魅せてくれる。終盤ドラマがやや失速するのが惜しいところではある。

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